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神様は賽を振らない 第6章 4

>>04

 ……俺でもわかる。
 どんな事件現場も、あの時とは比べ物にならなかった。
 脳が自己修正する程の惨状は、多くの人間の正気を奪い去った。多くの人間の心に消えない傷を残した。その傷は、忘れさせまいとたまに疼くのだ。
 血の匂いがする。あの時と同じ匂いだ。
 槙田は眩暈がした。ぐにゃりと風景が歪む。

「大丈夫か?」

 気付くと千野が槙田を支えていた。

「あぁ、……すまない」

 槙田は口を押さえながらそう返したが、吐き気がしていた。

「全滅?」

 千野が確認するようにアレクセイに向かって言った。

「……そう考えるのが妥当かな」

 アレクセイは涎を拭いながらそう返した。眼の色も変わっている。食欲を抑制する薬を服用しているとはいえ、これだけの食料を目の前に理性を保っているのは至難の業だ。逆に千野は人間よりもグールの血に反応する薬のおかげで理性は保たれている。
 槙田はしゃがみ込みたいところを耐えて、その風景へとまた視線を向ける。救出すべき50人は、目の前で山積みになっている。自分たちの身長よりも高い死体の山が聳えている。
 取り残されていた部隊との合流地点より少し手前だった。他の数少ない生き残りを探し回る猶予はない。周辺を簡単に見回るぐらいしかできない。

「数えるべきか?」

 千野が眉間にしわを寄せて槙田へと問う。もちろん、死体の数を確認すべきかを聞いている。
 槙田は時計に目を向け、チラリとアレクセイの方を盗み見た。

「……時間がない。お前の薬もそろそろ切れるだろ。それにアレクがしんどいはずだ。薬を打って戻る。千野は念の為周辺を捜索してくれ」

 もしかしたら、誰か生き残っているかもしれない。もしかしたら……虐殺した犯人がまだ近くにいるかもしれない。指示をしながら槙田はそんなことを考えていた。
 ため息をつきながらウェストバッグから小型のカメラを取り出した。後になって、全員の生死を確認しなかった事を問題視される可能性もあり、現状報告の手段として写真に収めることにした。フィルター越しに見えるものが、本当に今自分の目の前にあるという事を否定したい気持ちと、五感が感じ取る現実で喉の奥が苦しい。何かがつっかえているような違和感を感じる。やんわりと首でも絞められているようだ。
 数枚の写真を撮り、カメラをバッグへとしまっていると、注射器を手にしたアレクセイが声を上げた。

「班長…、待ってくれ」

 何かを感じ取ったように、周辺をキョロキョロと見回す。

「そうだ、随分待たされたんだ」

 降って沸いたように声がする。くぐもったようなその声には聞き覚えがある。
 1体、2体と、バラバラと死体の山が崩れだす。
 アレクセイは槙田の方へと走り出していた。直ぐに盾になるようにして彼の前に立った。

「……帰るには早い」

 男はまるでゴミをかき分けるが如く無造作にが死体を押し退けていく。全身血まみれの男が、ゆっくりと姿を現した。
 アレクセイが握りしめたままになっていた注射器を腿へと刺す。
 あまりのインパクトに、槙田は声を失っていた。

「積み上げていたら埋まってしまったんだ。どうせ君たちはコレを探しにやってくるんだろうと思って、疲れたからそのまま休むことにしたんだが……重くて肩が凝ったな……」

 そう言いながら、男は首を左右に動かした。手には銃を持っている。腰にはナイフが2本見えた。

「……シェーム、お前が全部やったのか?」

 槙田は掠れた声で男に向かって言った。
 そう言われた男、シェームは、崩れた死体の山の方を振り返った。

「いい加減喰べてないで出てこい。仕事だ」

 良く通るその声に反応し、また死体の山が崩れ始めた。中に居たのは彼1人というわけではなかったらしい。この血の匂いに誤魔化され、千野もアレクセイもその存在に気付くことができなかった。

「ハイハイ、誰殺ればいいの?」

 誰かの腕の肉を歯で毟るように食べながら、死体の山の上にグールが現れる。

「桐島 直が来ると踏んでいたが、当てが外れた様だ。野々宮 一もいないのか。まったく、残念にもほどがある。僕は戻る。全員始末しておけ」

 血でベトベトになった長い前髪をかき上げながら、シェームは興味なさげに槙田たちを一瞥して背を向けた。

「えー……、なんかちょっとめんどくさそうだな」

 不服そうにそう声を漏らしたグールが、発言とは裏腹に準備体操でもするかのように腕を伸ばしストレッチをしている。20代前半、金髪、真っ紅な眼をした男は瞬時に鋭利な爪をむき出しにした。

「待て、逃げるのか!」

 槙田はそう叫んだが、言い終わるより早く目の前にグールが襲い掛かっていた。立ちふさがっていたアレクセイが槙田を庇うように男の回し蹴りを受けて膝をついた。槙田はよろめくようにして数歩後ろへと下がる。スピードについていけず、まだ何が起こったのかよく理解していない。視線はシェームを見据えたままだ。
 それを見据えていた様に、グールの背後に見えているシェームは銃を槙田へと向けているのが見えた。
 まるで汚いものでも見るようなその表情に寒気がした。
 やめ…ろ……。
 槙田も反射的に銃を構えようとしたが間に合わなかった。銃声と同時に自分の身体に熱を感じた。
 アレクセイが男の足を掴み引っ張ると、男は回転しながら地面へとたたきつけられる。その足の骨を折ると悲鳴が上がった。
 槙田は腕を引っ張られたおかげで、2発目の銃弾は彼の身体にヒットしなかった。銃を握っていた手ををいつの間にか掴まれている。

「撃て!」

 千野……?
 声がして、その声に従って槙田は引き金を引いた。ほぼ同時に千野が金髪のグールへと発砲。槙田がシェームへと向かって放たれた銃弾はヒットしたが、彼にその事を確認できる余裕はなかった。

「うぁっ…!」

 小さなうめき声と一緒に、槙田の顔面へと液体が飛んでくる。千野が頭を吹き飛ばしたグールの脳みそと血が混ざりあったものだ。激痛に視線は自分の足元へと向かう。ナイフの突き刺さった脹脛が視界に入り槙田が倒れかけるのを千野が支える。

「まるでリリスの僕のような強さじゃないか。君たちは異常だ」

 シェームが大げさなジェスチャーと共に楽し気に言った。

「バカか? 俺たちの存在自体が異常なんだよ」

 千野が耳の中に入り込んだ汚れを気持ち悪そうに拭いながら言う。この状況でもシェームに余裕がある理由を千野は知っている。さっき周辺を見回った時に、他にも多数のグールがいる事に気付いたからだ。だから直ぐに戻ってきた。人間は残っていない。生き残っていられるような状況じゃない。薬が切れかけているのも感覚的に解っていた。槙田を早く連れて帰らなければならない。戻ってみれば案の定、嫌な状況へと突入していた。

「馬鹿は君の方だろう。捨てていけばいいじゃないか、そんな荷物。元人間だから、仲間意識でもあるっていうのか?」

 シェームが腕を組みながら言う。さっき肩を撃たれたせいで、だらりとぶら下がった左腕の指先からは滴った血が地面を汚している。
 槙田は足に力を入れようとするが、痺れと痛みを感じるだけでいう事を聞かない。
 千野が携帯している拘束具で槙田の足を止血する。傷は深い。

「うっ……!!」

 槙田が小さなうめき声をあげる。意識もいつまでもつかわからない。
 薬を打った時点で、アレクセイも敏感になった感覚で多数のグールの存在を確認していた。しかも、雑魚に混ざって強者が数名の紛れ込んでいる。自分たちの存在に気付いているのかいないのか、取り巻くグールたちはこちら側に近づいてきてはいない。シェームがそう仕向けているのだろうと考えていた。
 アレクセイが後ろを気にすると、千野と目が合う。2人の視線は槙田へと向かう。

「すまない、ジャスパー(槙田)が負傷した。生存者なし。撤退していいか?」

 アレクセイが無線で水無瀬へとそう伝える。その場を退避するのが最善だという判断を2人は下した。

『……敵の様子は?』

 いままで拾い上げられた音声だけはずっと聞いてはいたが、それだけでは状況はつかみきれない。ただ、彼らの目の前にはシェームが居て、槙田が負傷、生存者がいなかった事だけはわかる。このままシェームは3人の事を追ってくるだろうか。だとしたら護っているゲートが危険にさらされる。

「サムシエル!サハリエル!」

 シェームが声を張り上げ名を呼ぶ。

「……最…悪だ」

 槙田がそうポツリと呟いて意識を失った。

「ジャスパー(槙田)が落ちた。しかもシェームは仲間を呼びやがったっぽい。マジ、最悪」

 千野が舌打ちをして言った。

『ホリー(桐島)よりA班、スノーバード(千野)はジャスパー(槙田)連れてこっちに戻れ。ビッグベアー(アレクセイ)は敵に応戦。俺がそっちに加勢する。ビッグベアーは戻ってこっちに加勢。OK?』

 早口で通信に割り込んできたのは桐島だった。

『了解』
「了解」

 槙田以外の全員が口をそろえる様に返答する。
 千野が槙田を抱きかかえて走り出す。
 現れた2名のグールにアレクセイは向かっていく。
 ここを乗り越えられなければ、全てが無駄になる。無駄死にだ。



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美雨

Author:美雨
オリジナル小説・詩の下書きblog
「神様は賽を振らない」の連載開始。
※物語の特性上、一部不快(グロテスク/残酷)に思われる表現があります。
※作品の転載・お持ち帰りは禁止です。何かで使用されたい場合は、事前にお声かけください。歓迎★
※詩を歌詞として曲などで使用していただけるかた募集中。また、その逆も募集中です。

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