1012345678910111213141516171819202122232425262728293012

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

神様は賽を振らない 第6章 3

>>03

 基本的に、水無瀬が気を配って後方支援をしていたのは野々宮 一だった。桐島 直と比べてしまうと、どうしても能力的に衰えを感じる。比較的年齢の高い彼は、年々能力が低下している。経験が彼を支えてはいるが、戦闘員として職務を実行するのは、そろそろ限界だという能力検定の結果も報告を受けている。最終的に戦闘員からの引退決定を下すのは、監視役の2人だ。野々宮の存在は、槙田班にとって安定材料でもある。誰よりも長く槙田と組んで仕事をしてきた事、槙田よりもキャリアが長い事は、彼の信頼性を高める要素でもある。
 妹の尚にとっても、その存在は必要なものだと2人は考えていた。尚は優秀な人材ではあるが、訳アリで取扱い注意だったりする。
 水無瀬は久遠と直接連絡を取りながら任務に当たっていた。報告は逐一彼にするように命令を受けている。この任務の重要性と、更には桐島 直が槙田班に入った事が大きく関わっていると水無瀬は考えていた。彼女は桐島の事をよく知らない。彼女に提示された彼の情報は他のメンバーと大して変わらなかった。他のメンバーと同じとは言えないような人物である事はわかりきっているというのに。
 過去に作り出されたクローンである一と、新たに作り出された桐島。水無瀬は2人の様子を見て、初めて過去に接点があった事を知った。誰に対してもさほど対応の違いのないような一の様子がいつもと違う事も気にかかる。少ない時間の中で桐島 直の過去について簡単に調べてみたものの、警察官時代の情報は水無瀬では見る事が出来なかった。

「セカンドポイントに到着しました」

 常に回線は繋がっている状態だ。ボタンひとつで相手に水無瀬の声が届く。仲間との無線のやり取りや、現場でのやり取り、水無瀬がその全てを集約している。混乱のないようにコントロールしている。こういった事は槙田よりも得意とする。

「了解。予定より12分遅れていますね」

「お言葉ですが、12分で済んで良かったと言えます。ここを出て直ぐに戦ったのは相手は、確かスノーバード(千野)が1度交戦を避けた相手です。彼がそんな判断を下すのはLの僕レベルの敵ぐらいです。私たち監視役を守れない場合の敵ですよね。その相手をこの短時間で倒していること自体……」

 聞いてもいい事なのだろうか?
 そこまで話をして、水無瀬は聞こうか聞くまいか気になっていた事が頭をよぎり口ごもってしまった。

「どうかしましたか?」

 水無瀬は引き金を引き、弾はグールの頭へとヒットした。スコープの向こう側はまるで別の世界の様に思える。養われた平常心は誰かの命を救うが、誰かの命を奪う。この手で殺しているというのに、あまりにも冷静な自分に軽蔑と畏怖が共存する。

「……いえ、射殺しただけです」

 そう言って、水無瀬は話をすり替えた。千野がいつも以上の、というよりも未だかつてないほどの能力を発揮しているのは、注射した薬のせいだと考えられる。その薬の安全性を、久遠の口から聞きたかった。桐島はああ言ってはいたが、まさか薬が切れると同時に命を落としたりするような危険性がないのか心配だった。
 監視カメラの映像やスコープによって観察できた千野の様子を見ていると、全ての力を使い果たすような勢いを感じた。それは感覚的なもので水無瀬が見たただの感想ではあるが、どうしても気になってしまった。桐島はクローンだ。肉体の替えがある。だが、他の戦闘員達はそうはいかない。
 作戦の成功が戦闘員達の命よりも優先されている可能性もある。
 真実を話してもらえるとも限らないが、どっちにしろ水無瀬は怖くて聞けなかった。今はただ、誰も死なずに任務の成功を祈りながら、その為に自分ができる事をするだけだ。
 引き金を引く。的確に、的を射抜く。

「ゲートの状況?」

 久遠もそれ以上何も言わず話を変えた。

「はい。ホリー(桐島)は先ほど話したシェームの仲間だと思われるグールを倒し、今は周辺のグールと交戦中。ヘヴンリー(尚)も同様です。アルパイン(一)は未だシェームの仲間と思われるグールと交戦中です。以前の事件に関わるグールが数名いるようですが、寺島主任と遭遇した場合は確保し連行すれば良いですか?」

 千野が闘っていたグールといい、水無瀬はGC研究擁護施設の襲撃事件の容疑者であるグールと同じグール達がこの場所も襲撃をしている事に気が付いていた。警察を裏切った警官である寺尾の姿はまだ確認できていない。消息不明なままだが、もしかしたら彼もまたここに居るのかもしれないと水無瀬は思っていた。

「いいえ、寺尾 泰知には射殺命令が出ています」

「はっ? 逮捕ではなく、射殺ですか?」

 久遠の言葉に一瞬集中力が切れかける。寺尾はグールではない。テロリストリストへと名を連ねる事になったが、まさか射殺命令が出ているとは思わなかった。

「見つけ次第、他のグールと同様に始末する」

 逮捕ができる状況であっても、見つけ次第射殺する。利用価値がないと判断されたのだろうか? 彼からシェームの話を聞き出すこともなく、弁明もさせない。何か理由でも?
 水無瀬はグールではない人間を撃った事がない。威嚇や、逃げる足を撃ったりはあっても、命を奪ったことはなかった。彼の事も標的と同じように撃つことができるか、一抹の不安はある。相手が投降しようとしていたとしても、丸腰だとしても、殺す事になる。
 ただでさえ気が重いが、警察関係者で知り合いの息子というのも滅入る。

「……了解」

 水無瀬はそう答えていったん報告を終える。
 集中したいのにモヤモヤだらけなんですけど……。そんな事を思いながらイラつきさえ感じる。長く息を吐きだしながら、標的に標準を合わせる。真顔だが心中穏やかとは言えない。
 一とグール、2人ともスピードが速すぎて撃てる隙がない。一には疲れが見え隠れしている。
 このレベルのグールと対戦していたら後が持たないかも。
 そう考えた水無瀬は無線に手を伸ばす。まよっている猶予はない。

「シュガーボール(水無瀬)からホリー(桐島)、応答願います」

『こちらホリー。問題発生?』

 直ぐに桐島から返事が返ってくる。

「アルパイン(一)の応援を要請します」

『了解』
『必要ない』

 低い声で会話に割り込んで否定してきたのは一だった。それに水無瀬は抑揚のない声で応答する。

「これは命令です。わかっていますよね。5時の方向から3人向かっているのが見えます」

 これ以上1人じゃ対応しきれない。
 そう水無瀬は口には出さなかったが本人もわかっているはずだ。その証拠に、一はそれ以上何も言い返さなかった。
 スコープの向こうには直ぐに桐島が現れた。グールに向かって猛然と走って来ると、左腕から掬い上げる様に力技で一から引き離すように投げ飛ばした。相手のグールは片膝をつきながらよろめくように立ち上がると、身構える。水無瀬はその隙に相手の頭を狙って撃った。しかし、弾道はズレて肩にヒットした。
 既に動いていた一がその肩を蹴り、相手は体制を崩された。右手で突こうとするも避けられ、一に間合いに入られ出ている右足を払われる。また膝をついた相手の耳を殴り、相手は半ば平衡感覚を失ってそのまま倒れかけた。追い詰める様にこめかみへと手刀を入れ、右突き、左膝蹴りと続けるが、相手も何とかそれを受け止めていた。
 桐島は後方から現れたグールに手を出させない様、相手をしていた。攻撃をよけながら軽く首の骨を折り、心臓を突き、頭を撃ち抜いていく。相手が一が相手をしているグールと比べ弱いといっても、水無瀬1人では当然太刀打ちできない。危なげない接近戦を繰り広げ、余裕さえ感じられたその姿を見て、心強さと共に恐怖も湧き上がる。
 一はグールにタックルを受けるが、相手の髪を掴み振り上げる様に投げ飛ばした。相手は一の頭上を舞い、彼の後方の地面へと叩き付けられる。一はグールを押さえつけようとするが、相手はそれを辛うじて免れる。
 裏打ちの軌道を描く掌底に、右フック。グールの腕をつかみ、相手が防御をしようとした隙に首筋を掻き切った。相手の血が一の顔を赤く染める。飛び上がり叩き落すようにして肩を左肘撃ちし、下から突き上げる様に首へと右肘蹴りを入れる。相手からは更に血が噴き出した。
 もう、意識は殆どないだろう相手の後頭部へと裏打ちをし、地面に倒れこんだところで頭に銃弾を撃ち込んだ。

『お前薬打て。できる限り数上げろ。後は俺が何とかする』

 肩で息をする一に桐島が言う。見た目にはあまりわからないが、今の闘いで打ち身や骨折はしていそうだと水無瀬も考えていた。
 予定より早いけど、使う時なのかもしれない……。じゃないと、野々宮さんの身も危険になる。
 無線はオンラインのままで2人の会話は水無瀬にも届いている。桐島の言っている事に水無瀬も同意見だった。

『打つ?』

 桐島の方を睨み付ける様に見ながら一が言った。

「お願いします」

 水無瀬は2人の周囲を警戒しながら言った。

「3時!」

 立て続けに今度は声を上げたが、それよりも早く桐島は敵に反応し、銃弾を放っていた。水無瀬の声は銃声にかき消される。
 それを見通して一は腰に巻いているポーチから注射器を取り出していた。それを腿へと刺すと彼の姿は人間からバケモノへと変化していった。あそこまで豹変した一を初めて見た水無瀬は、初めて彼を怖いと思った。
 一が雄叫びのような叫び声をあげる。キーンと耳鳴りがして、痛みで水無瀬は耳を抑えた。おかげで一時的だろうが、耳が聞こえづらくなってしまった。

『なんか、昔と逆だな。前はお前に助けてもらってばっかりだった。今度は俺が返す番だ』

 ぼんやりと聞こえる2人の声に耳を澄ませる。

『今は僕ができそこないってわけだ』

 そう言って一がその場を離れる。
 できそこない?
 水無瀬にはその意味が解らなかった。
『ハァ…ハァ……サード地点、到着』

 息切れした槙田の声が耳に届く。予定よりも16分遅れている。次は合流地点だ。






にほんブログ村 小説ブログへ
にほんブログ村


Web小説 ブログランキングへ
関連記事
スポンサーサイト

テーマ:自作小説
ジャンル:小説・文学

コメントの投稿

secret

top↑

comment

trackback


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

top↑

プロフィール

美雨

Author:美雨
オリジナル小説・詩の下書きblog
「神様は賽を振らない」の連載開始。
※物語の特性上、一部不快(グロテスク/残酷)に思われる表現があります。
※作品の転載・お持ち帰りは禁止です。何かで使用されたい場合は、事前にお声かけください。歓迎★
※詩を歌詞として曲などで使用していただけるかた募集中。また、その逆も募集中です。

最新記事

カテゴリ

リンク

ブロとも申請フォーム

人気ブログランキング

にほんブログ村

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。