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神様は賽を振らない 第6章 2

>>02

「そろそろいっかな」

 桐島が腕時計を見ながらそう口にしながら立ち上がった。
 地下道を移動中。運転は槙田班とは無関係な警備部の警官がしていた。彼が座っていたのは一番前の席だ。隣には誰も座らなかった。斜め後ろには槙田。その後ろには千野。アレクセイ、野々宮兄妹と続く。水無瀬は運転席の隣へ座っていた。作戦開始時刻の調整を、現地の隊と無線連絡をとっている。槙田は作戦の最終確認をしていた。ちらりと桐島の方を見たが、直ぐに手元の資料へと視線を戻した。

「まずは、千野君。アレクセイ君。あと、野々宮。あ、一の方ね」

 そう言いながら、桐島が一人ずつに何かを手渡していく。

「何コレ? 鎮静剤?」

「いや、グールの特性を引き出すおくすり。支給品」

 千野の問いに桐島が答える。各々の手には鎮静剤と似た注射器が手渡されていた。いままでそんな薬が支給されたことはない。

「俺、聞いてないですよ?」

「うん。失敗した場合、使用した痕跡が残ると困るから聞かされてないと思うよ。現場での使用は今回が初めてだし。つーわけで、皆さんも秘密にしといてくださいね」

 増強剤みたいなもんか……。安全性は確かなのか? 暴走したり……。
 槙田は息だけ吸い込んで、言いたい言葉を取り敢えず呑み込んだ。顔にも感情が出ないように取り繕う。今、戦闘員たちを動揺させるわけにはいかないと思ったからだ。

「テストは済んでますか?」

 手にした注射器に視線を落としながらアレクセイが落ち着いた声で言う。

「俺で実験済み。人間の血より、グールの血に反応するようになってるから、いつもと違って人間を襲うリスクは逆に減る。1時間ぐらいで効果というか、体力的に限界が来るから、2人ずつ順番に打ってもらう」

「あの、私のは?」

 後ろから右手を上げた尚が声を上げる。

「使用許可がおりたの18歳からなんだよ。まぁ、俺は経験済みだから特例で許可降りてるけど、君はダメです。最初から4本しか支給されてないから君の分はないよ」

 そう桐島に言われて言い返しはしはしなかったが、尚はそれでも膨れたような表情を見せた。納得はしていない。仲間はずれ、子ども扱い、そんな風に思ってはいるが、駄々をこねたところで自分の分はない。こねるだけ無駄だとわかって黙った。隣で一が握っている薬を見ながら、小さなため息をついた。

「まずは、千野君から。30分後にアレクセイ君ね。時計にアラーム付けておいて」

 自分の腕時計のアラームをセットしながら桐島が言った。
 到着まで大よそ3分といったところだ。槙田はこの作戦が短時間の集中決戦になっている意味がわかった。しかも本当は、想定よりも短い時間で片を付けようとしている事にも気が付いた。
 可能なのか? 本当にこんな事が……。
 この作戦の成功率は10パーセントあるかないか、最悪だったあの時と変わらない程だと考えている。生き残れたことが奇跡だったあの時の戦いと変わらない。誰も何も言わなかったが、いつも以上に死を覚悟している。

「いいの? 打っちゃって」

 千野が槙田の方に向き直って聞いた。
 彼は槙田を信頼してそう聞いている。そのクスリのリスクを槙田へ託すように。
 槙田にはその薬の安全性やリスクに関する情報は皆無だ。存在すら知らなかった。判断材料がない。けれど、その薬なしでは、この作戦の成功は有り得ないことを感じ取っている。危険な賭けだらけだ。ここを成功させなければ、後がないとでもいうかのように。
 やるしかない。
 やるしかない。
 やるしかない。そうだろ?
 槙田は千野に頷いて見せる。
 千野はためらうことなく自分の方へと注射器を刺した。
 槙田が手にしていた資料がくしゃりと音を立てる。握りしめたての中で皺になっていた。
 俺は正しいことをしているのか?
 結局、ネフィリム計画の駒となって動くことを選択している。桐島 直のクローン化に異議を唱えた綾瀬 円佳の意思とは反する行動をとっている。彼らは兵器だ。グールであって、人間ではない。それが元人間でも? それが人間とグールのハーフでも? 人間を守るための兵器に、人間と同等の命の価値はないのか? そんなことはずっと昔から自問自答を繰り返している。
 正しいとは何か。
 正義とは何か。
 少なくとも、彼らは必要な戦力であり、戦友でもある。この道を選んだのは彼らの意思であり、この道を選んだのは自分の意志でもある。辞めることを選ばなかった。なんでだろう。
 ただ、選択する事を許されない場合、強制的に、言わば計画的に作り出されたクローンは? それが突然変異によってグールになる者と同じように平等な運命だと言えるだろうか? 不自然に、勝手に生み出されたというのに。
 その命を、槙田は他のグールと同じように接してきた。でもそれは、一のクローンが存在しないからだろうか。再生される事のない命になったからだろうか。
 槙田は昔のような、兵器として量産されていたクローンを部下に持った事がない。桐島が死んでも、新しい桐島が送り込まれる。これからはそうなる。基本的にどの戦闘員よりも、人間である監視員である捜査官の命が最優先される。もしもの場合、彼らは自分の命と引き換えに人間を助ける。人間は、彼らを見捨て自分が助かるのならその道を選ぶように規約には明記されている。
 そもそも何故そうでなければいけないのだろう?
 正しいとは何か?
 正義とは何か?
 走馬灯のように考えが様々な言葉となって頭の中を駆け巡っていた。

「到着しました」

 運転をしていた捜査官の言葉で思考が遮断される。槙田は我に返るように現実へと引き戻された。
 注射を打った千野が身震いをしている。彼の眼が一気に紅みを帯びていく。

「……う…ぁ。なんかすげーなこれ。感覚が鋭くなる」

 大きく深呼吸をして千野が髪をかき上げながら言う。どことなくいつもと雰囲気が違うようにも思える。

「急いでください。ゲートのロックが解除されるのは30秒、1度切りです」

 水無瀬が珍しく声を張って指示を出す。
 分厚い壁の向こう側。今も誰かが血を流し、死んでいる。

「千野、外のグールの数がわかるか?」

 桐島の声色が変わる。

「ココを狙ってるのは23人かな。そん中の3人がやばそう。大丈夫、なんとか2階は死守してる」

「了解」

 ずいぶん詳細にわかるもんだな……。
 槙田は唾を飲み込んだ。兎に角、占拠される前に間に合った様だ。

「作戦続行」

 槙田の言葉を拾い、水無瀬が無線越しにゲートオープンの要請をする。

「作戦続行です。10秒……5秒」

 カウントダウンの後、ロックの解除音が響く。足早に開いたゲートを超えていく。同じことをもう1度繰り返し、2つ目のゲートを超えると、そこは戦々恐々とした血の匂いが充満していた。
 薬を飲んでいても、他の戦闘員も目の色が変わりそうだ。
 千野の姿を見て、数人が悲鳴を上げ、1人は銃を発砲。かろうじて避けたが、グールと戦う前から仲間に殺されかけた。戦力外の者を別室へと退去させ、後の者は後方支援へ回らせる。

「1班は周囲のグールを倒しながら、A地点を目指す。2班は周囲のグールのせん滅。連絡を怠るな」

 槙田の言葉に全員が返事をし、作戦が決行された。1班は千野、槙田、アレクセイの3人だ。2班は残りの4名になる。
 例え救出に成功し、ここまで戻ってこれたとしても、ここが落とされていたら作戦は失敗に終わる。槙田は全員の顔を見渡した。
槙田の合図で千野が行動を開始する。
 長い1日の始まりだ。

 1階へと降りていくための階段入口のロックを解除。

 階段下の1階入り口のロックを解除するために、千野のストップのハンドサインが送られる。更に槙田へショットガンのサインが送られた。直ぐにそこに3人の敵がいることも知らされる。1階を出るまでは、後方からの応援も受けられない。3人で切り抜けていくしかない。
 千野のカウントダウンと共にロックが解除され突入する。千野とアレクセイは素早く外へと飛び出す中、槙田は慎重にショットガンを構えながら進んで行く。足元にはほぼ人の形を保ていない死体がいくつか散らばっている。おびただしい血が壁や床を汚している。
 千野が1人を仕留め、更にアレクセイも1人倒している。今回の作戦では逮捕する事が目的ではない。相手のグールを殺すよう命令されている。

「槙田!」

 そう、千野が振り返り槙田を呼んだのと同時に、槙田の右側の窓ガラスが割れる音がした。
 残りの1人か……!

「ギャアアアアアアアァァ」

 ガラスを割って飛び掛かってきたグールに肩を噛みつかれそうになったところを、ぎりぎりショットガンで振り払うが、直ぐにまた襲添いかかってくる。ショットガンを構える暇もない。力では抗えない。槙田はただ自身を防御する。

「ヴアアァ!!」

 槙田が予想していた痛みはやってこなかった。千野がグールの頭を鷲掴みし、壁へと打ち付ける。ぐしゃりと嫌な音がしたが、更に首の骨を折った。
 千野は、今までで槙田が見たことがない程変異していた。長く伸びた爪に、鋭い牙が口からはみ出ている。真っ紅な眼をして、荒い呼吸を繰り返す。明らかに興奮状態と言える彼に、流石の槙田も腰が引ける。
 千野は槙田の方を振り返えり、手を差し伸べようとしてやめた。槙田の様子に何となく気付いたからだ。ゆっくりとその場を離れ、先へと進んでいく。槙田は自力で立ち上がってその後を追う。
 正気を失っているわけではない。薬の効果だ。
 解っているつもりだが、咄嗟に心構えが崩れてしまった。千野を傷つけてしまったかもしれない自分の反応に罪悪感がこみ上げる。

『無事ですか?』

 水無瀬から連絡が入る。槙田はマイクを2度たたいて無事を合図した。
 長めの廊下の先に出入り口がある。1階には小さな監視室が1室あるだけであとはゲートを結ぶ通路ぐらいしか存在しない為、通常なら直ぐに外へとたどり着く。出入り口のドアは破壊され、ドアは外されたような状態になっていた。窓はない為、外の様子はわからない。数台の監視カメラによって監視されている。

『出入り口付近に2人近づいてます。その他5人ほどがうろついています』

 2階でカメラの映像を確認している水無瀬の報告が入る。槙田以外のグールである2人は既にそのことに気付いている。千野が急ぐようにハンドサインを送る。

「……お前、何者だ」

 はっきりした口調で誰かが話している。千野でもアレクセイでもない。千野のマイクに入った声が槙田まで届いていた。
 槙田は走り出していたが、それを途中で千野が止めた。呼んでいたのはアレクセイの方だった。槙田はショットガンを構え、その場で足を止めた。

「養護施設の時の男か」

 千野の隣でアレクセイが呟く。
 あの時逃がしたシェームの仲間か。
 槙田は自分が殺されかけた事件の事を思い出した。

「……お前たち2人は仲間ではなかったようだな。もう1人いる人間の仲間だったか」

 男は低い声で言う。この男が千野が言っていたやばそうな3人のうちの1人はこいつなのだろうと槙田は考えていた。





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Author:美雨
オリジナル小説・詩の下書きblog
「神様は賽を振らない」の連載開始。
※物語の特性上、一部不快(グロテスク/残酷)に思われる表現があります。
※作品の転載・お持ち帰りは禁止です。何かで使用されたい場合は、事前にお声かけください。歓迎★
※詩を歌詞として曲などで使用していただけるかた募集中。また、その逆も募集中です。

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