1012345678910111213141516171819202122232425262728293012

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

神様は賽を振らない 第5章 3

>>03


未だに寺尾センター長は行方知らずのまま、3ヵ月が経過した。何の手がかりもないまま、周囲にはあきらめの雰囲気が出始めている。それでも槙田はあの寺尾が死んでいるとは思えなかった。同様に、秋月も捜索の手を緩めることなく捜査を継続している。
 まるで手がかりもなく、死体も見つかっていない。あまりにきれいに消えていた。それは逆に不自然ではないかと槙田は考えていた。ただ、故意に隠れているような寺尾が危険な状態にあることは間違いないといえる。
 寺尾を追っている誰かより早く見つけない限り、生きた彼にはもう会うことが出来ないかもしれない。
 焦りはあるが、自分たちの行動も寺尾に危険を招くとも限らない為、できるかぎり慎重に捜査している。
 11ゲート東のGC研究養護施設の襲撃事件では、唯一の犯人手掛かりと言える研究員全員の死亡が確認された。ただ、研究員以外に生存者は確認されている。
 槙田も現場で遭遇している犯人の一味だったと思われるその人物は、寺尾センター長の息子である、捜査支援分析センター主任、寺尾 泰知(テラオ タイチ)だった。指名手配中だが、見つかっていない。
 寺尾の捜索はもちろん重要だが、今日休暇だった槙田は1ゲートのとあるホテルに居た。
 こんな場所に来たのは学生の時以来かもしれないな……。
 そんなことを思いながら、妙な緊張感を感じていた。

「シャワー、一緒に浴びません?」

 脱いだ服をベッドへと放り投げながら、槙田が言った。1人ではない。

「いいわよ」

 そう言って笑った彼女を見て、危うく任務を忘れかけた。前から思ってはいたが、美人だ。化粧は控えめなのに華がある。
 今から40分前、待ち合わせの場所に彼女は現れた。秋月に連絡先を教えられ、会う手はずを整えた。以前彼女と会ってから11日が経過していた。監視されている事は明らかで、電話でのやり取りはお互い言葉を選び注意しながらになった。やっと今日、会う事にはなった。
 待ち合わせ場所のカフェで、借りていた本を返すフリをして、槙田は綾瀬に本を渡した。彼女は槙田の目を見て、それを受け取りカバンへと入れた。他愛のない話をした数分後、彼女はカバンを手にしてトレイへと向かった。本には手紙が挟んである。今日、これからどう行動するのか、話を合わせる様に指示が書かれている。秋月が書いたものだ。彼女はその手紙を誰の目にも触れない様、その場で処分する。
 綾瀬がトイレから戻ると、2人はカフェを後にした。今は2人でラブホテルに居る。これも秋月のアドバイスだ。ここなら監視カメラは出入り口にしかない。個人情報を記帳する事もないから、部屋の特定に時間がかかる。盗聴の心配が少なく、時間が稼げる。わざわざ服を脱いだのは、服に盗聴器が仕掛けられている場合を想定してのことだった。
 バスルームへ行くと、槙田は念のため強めにシャワーを出した。これも盗聴対策だ。その後直ぐにバスルームへと入ってきた綾瀬はバスタオルを巻いていたが、槙田は直視せずに視線をそらした。

「何分ぐらい時間ある?」

「おそらく、20分程度」

 やっと、話ができる。次にいつ話せるかもわからない。貴重な時間だ。

「半年程前から……」

 綾瀬の話を遮るように、槙田が口を開く。

「その前に、話せば君は命を狙われる事になるかもしれない。まぁ、話を聞いた俺もだけど。君に張り付いているのは公安で、君を殺すよう命じるのは国だ。口を噤んでいればやり過ごす事ができるかもしれない。その手助けを秋月さんがしたいそうです」

 彼女は槙田の話を聞いても驚かなかった。想定内の事だった様だ。眉間にしわを寄せ、大きなため息をつく。

「前任者はグールに殺された事になっているみたいだけど、きっと違うのね。何か不都合があれば、私も殺される。あなたがどこまで知っているのかわからないけれど、私は……あんな事許せないわ。秋月さんは知っていて容認しているって事?」

 そう言って額を手でこすりながら、綾瀬がバスタブへと腰かけた。

「俺は何も知らない。ただ、秋月さんは信用できると思う。それに、君を守ろうとしている。多分それって秋月さんにとってはデメリットに成り得ることだ。それでも彼女は君を守る気でいる」

 槙田が綾瀬の方へ視線を戻しそう言うと、彼女はどこを見るという感じでもなく左下の方を見ながら押し黙っていた。
 俺だったらどうするだろう。彼女は馬鹿じゃない。自分が今している行動がどんなに危うく、周りを巻き込み危険に晒すのかわかっている。そのうえで今、俺と会っている。そこにはよっぽどの理由があるんだろう。
 厄介事には慣れているが、国を敵に回したことはない。国家の犬として、できる限りの命を救ってきた。何もないとは思っていない。どこにだって闇はある。それに触れるべきか、やめるべきか。
 結局槙田は、その判断を闇を知る彼女に任せることにした。仕事上での付き合いしかないが、彼女の誠実さは感じとっている。何より、秋月が危ない橋を渡ってでも助けようとするその姿勢が後押ししていた。
 腕時計を見ると、数分が経過していた。綾瀬がふと視線を上げる。

「私があなたを選んだのは、私が話した事をあなたが聞いて、どんな風に思うのか知りたかったから。警官で、グールと繋がりもある人間のあなたが、どう考えるか知りたい」

 綾瀬が何を言いたいのか槙田にはよくわからない。いつも落ち着いた様子の彼女しか見たことがなかったが、この時の綾瀬は不安に押し潰されそうになっている少女のように思えた。
 話は終わっていないが、急に部屋の入口のドアの方から音がし始める。時間切れの様だった。

「ごめんなさい」

 綾瀬がそう口にする。それが槙田を巻き込むことについての謝罪だったのか、立ち上がってバスタオルなしの裸で槙田に抱き着いた事についての謝罪だったのか、槙田は寧ろ両方かなと後から思う。
 槙田の首に両腕を絡ませ、綾瀬が耳元で囁いた。

「桐島 直(キリシマ ナオ)は生きている」

 シャワーの音にかき消されそうなその言葉は、槙田の知っている事実とは異なる発言だった。ただ、彼女が追われていることから察するに、それは真実だと言える。槙田は動揺し目を見開いた。その瞬間、バスルームのドアが勢いよく開かれる。

「……おい、どういうつもりだ」

 バスルームに現れた先日会った公安の刑事に向かい、綾瀬の腰を抱きながら槙田が言った。

「……猿芝居はやめろ。その女を連行する」

「ねちっこく追い掛け回してるらしいが、彼女が何をしたんだ? 調べさせてもらうぞ」

 槙田が男を睨みつけながら言う。男はそれを鼻で笑っていったんバスルームを出ていくと、2人の服を持って戻ってきてそれを投げつけた。

「早く着替えろ。お前たちができることは黙っている事だけだ。どうせ何もできない」

 確かに、公安部の情報を得ることは難しい。そんな彼らのおかげで、グールに関する情報も何十年とひた隠しにされてきた。槙田と綾瀬は顔を見合わせ、取り敢えず服を着る事にする。
 この先、槙田にも綾瀬と同様の監視が付く事が予想された。男にジロジロと見られながら着替えをする中、携帯の着信音が耳につく。それは次第に大きくなった。槙田はそれを不審に思いドアの向こうへと視線を向ける。男も後ろを振り返り、銃に手をかける。槙田も反射的に洗面台の隅に置いておいた銃へと手を伸ばす。急に見知らぬ男の声がした。

「きみ、もう帰っていいよ。後はぼくが引き継ぐから」

「誰だ」

「公安部総務課管理係、山根(ヤマネ)です。以後、綾瀬 円佳はわたしの管理下に置きます」

 槙田達の方からは、声は聞こえるが男の姿は見えない。その声に反応することはなかったが、綾瀬は山根という名前に反応を見せた。
 知り合いなのか?
 槙田には公安部の山根という男に見覚えはなかった。

「山根 和成か? だったら信用できません。確認させてください」

 男は面識はないようだったが、山根という男の事を知ってはいたようだ。そう言って銃ではなく携帯電話を取り出した。

「まぁ、身内じゃ信用できないだろうね。逃がすかもしれないし。どうぞ、確認してください」

 男が電話を掛けるためにバスルームから室内へと移動する。
 身内? 苗字は違うが、どういった関係なんだ。
 着替えを終えた綾瀬がドアの外へと駆けていく。その後ろを、身支度を終えた槙田が付いていくと、ドアの向こうから覗き込むように山根が顔を出した。

「コレ、出た方がいいんじゃない?」

 そう言って、鳴りっぱなしの携帯電話を槙田へと掲げて見せた。その容姿を見て、自分と同年代ぐらいだろうかと槙田は考えていた。

「すみません。ありがとうございます」

 急いで携帯電話を受け取ると、着信の相手は秋月だった。

「はい、槙田です」

「ハル君無事ですか?」

 早口で秋月が言う。なかなか電話に出なかった槙田を心配していたのだろう。

「はい。大丈夫ですよ」

「山根くんは間に合いましたか?」

「はい。今一緒に居ます」

 山根は秋月がここへよこした事を聞き、槙田は取り敢えず安堵した。信用していいと判断できるからだ。

「よかった。円佳ちゃんの事は山根君に任せて大丈夫です。彼は彼女の腹違いの兄で、公安部の人なんですけど、守ってくれると思います。ハル君の事は、わたしが守りますからね!」

 話の途中で電話を終えて戻ってきた男がまた姿を現した。

「槙田警部、事情聴取だ。連行する」

 ここへ来る前に秋月からそうなるだろうとは聞いていた。大人しく付いて行くしかない。抵抗しても逆効果になり、拘束時間が伸びるだけだ。

「行ってきます」

 槙田は秋月にそう返して電話を切った。
 戻ったら秋月に桐島 直について話を聞かなければならない。




にほんブログ村 小説ブログへ
にほんブログ村


Web小説 ブログランキングへ
関連記事
スポンサーサイト

テーマ:自作小説
ジャンル:小説・文学

コメントの投稿

secret

top↑

comment

trackback


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

top↑

プロフィール

美雨

Author:美雨
オリジナル小説・詩の下書きblog
「神様は賽を振らない」の連載開始。
※物語の特性上、一部不快(グロテスク/残酷)に思われる表現があります。
※作品の転載・お持ち帰りは禁止です。何かで使用されたい場合は、事前にお声かけください。歓迎★
※詩を歌詞として曲などで使用していただけるかた募集中。また、その逆も募集中です。

最新記事

カテゴリ

リンク

ブロとも申請フォーム

人気ブログランキング

にほんブログ村

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。