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神様は賽を振らない 第5章 2

>>02


 伝えたいことがたくさんある。
 どんなに忙しくても、時間を作っては私の話を聞いてくれた。あなたはとても一生懸命で、私の理想の女性。
 伝えたいことがたくさんある。
 聞いてもらいたいこと。相談したいことも。
 ねぇ、お母さん……。



 私は間違ったことをしているんだろうか。
 ゆっくりと歩きながら、綾瀬 円佳(アヤセ マドカ)は思った。白衣のポケットへ両手を入れるのは、彼女が考えをごとをしている時の癖だ。
 1ヵ月以上悩んで、彼女はある行動に出ることにした。それでも、その行動が正しいかどうか正直自信がなかった。右ポケットの中にあるライターを握りしめながら、彼女は1度も踏み入れたことのない建物の前へと入って行く。
 何度か制止を受けて、その度に警察手帳を見せた。彼女は明らかに浮いていた。その事にやっと気づいたのは2回目の制止を受けた時だった。
 こんな格好をしていたら目立つのは当たり前か……。
 綾瀬は白衣を脱いで歩き出す。それでも彼女はどこか独特な雰囲気の持ち主で、美人であったこともあって人目を引いていた。ココにこんな人いなかったよな? と、誰もが直ぐに気付くような容姿だった。
 目的のフロアへと到着すると、会おうと決めてきた人物を呼び出してもらうことにした。彼への直接の連絡の取り方がなく、綾瀬はわざわざここまで来たのだ。
 元々いたはずの署に居なくなっていた彼はいなくなっていた。できるだけ内密にコンタクトをとりたかったが、探す手前そういうわけにはいかなくなってしまった。彼に迷惑をかけたくはなかったのだが、結局そうもいかない事になりそうだという事をうすうす感づいてはいた。それでも、信用できそうな相手を探した時、数人の候補の中から彼女は彼を選んだ。対して親しいわけでもないが、彼の立場なら、少しは自分の話に耳を傾けてくれるのではないかと考えたからだ。それに彼なら、何か情報を持っているかもしれない。
 知らないほうが身の為。言葉は濁し遠まわしではあったが、見て見ぬふりをするように、上からは初めからそう言われている。言われてそれに従ってきた。が、3ヵ月も経った頃には、随分と気持ちが揺れ動いていた。
 自分が何の片棒を持たされているのか。
 本当にこのまま何も知らないまま、同じことを続けていればいいのか。
 自分が予想していることがもしも事実だったとしても?
 彼女の中の倫理観が警鐘を鳴らし続けた結果、綾瀬 円佳は今ココに居る。

「奥の部屋へどうぞ」

 対応してくれていた警官が受話器を置きながら彼女の顔を見ながら言った。

「どうも」

 そう言いながら、足取りは重い。呼び出したつもりが、奥へと呼ばれてしまった。しかも、指さされた奥の部屋は、捜査支援分析センター副長室と書かれている。
 役職かわった?
 こんな配置転換ありえるんだろうかと不思議に思いながら、到着したドアをノックする。

「どうぞー」

 予想していた声とは全く異なる声で返事があったことに困惑しながら、綾瀬はドアにIDカードをかざした。ロックの解除音がすると、ドアは自動的に開いた。
 登録のない部外者は、自分のIDカードをかざすだけでは中に入ることはできない。中からの解除が必要だ。更に出入りは常にチェックされているため、IDカードの記録が残る。
 これはちょっと、まずいかな……。
 自分がもし監視されているとすれば、この不審ともとれる行動は直ぐにバレてしまう。ただ、これで何かあれば、監視されているという事が明らかになるとも言える。
 今更後には引けない。
 綾瀬は迷いを振り切るように中へと入っていった。

「綾瀬さん、ココへ到着してから何分ぐらいたちましたか?」

「……」

 手前に座っていた彼は2人の女性を交互に見ただけで何も言わなかった。奥に座っていた綾瀬とは対照的な感じのかわいらしい女性が立ち上がってデスクの前へ出てきた。デスクの上に置いてあった名札表には、捜査支援分析センター副長、秋月 凛と書かれている。綾瀬はこの部屋は彼ではなく彼女の部屋だという事に気付いた。

「……10分も経ってないと思いますが」

 直ぐ近くまで寄ってきた秋月に綾瀬が答える。何故そんな事を聞くのか、疑問に思ったが秋月の様子に異変を感じて素直に従う事にした。

「あなたは監視されています。今から誰かがココへ来るでしょう。あなたはココへ何しに来たのか、問題はそこです。槙田警部にプライベートで会う為です。あなたは今日の午後オフですね?」

 話の途中で秋月のデスクにあった電話が鳴りだした。

「槙田警部もオフです。2人はこれからデートってことにしてください! ココを出た後も監視は続きます。いいですね?」
 捲し立てる様に秋月がそう言った。

「え? オフですか? デート?!」

 そこで初めて槙田が驚いたように声を上げた。

「はい、秋月です。ええ、いらっしゃいますよ。……構いません」

 受話器を取った秋月が誰かと話をしている。彼女が今言っていた通りに誰かがココへ来たようだ。

「今日は話したらダメです。わたしが何とかします」

 通話を終えると直ぐにドアの方へと戻って来て秋月が小声で綾瀬に言った。
 彼女は全部知っているのだ。でも何故? 彼女も関わっている? もしかしたらと思ってはいたが、監視もされていた。彼女はどうして私を庇おうとしているのだろう?
 幾つもの疑問が沸いてくるが、その答えを今得る事はできない。直ぐにドアをノックする音がした。

「はーい」

 秋月が返事をすると、扉の向こうから1人の男が現れた。面識はない。

「すみませんね、突然。綾瀬先生に急遽ご足労いただきたい案件がありまして」

 そう言って、男はチラリと綾瀬の方を見た。面識はない。

「あら、携帯に連絡して貰えればこちらから伺いますよ。番号、ご存知ですよね?」

 綾瀬はそう言って男を見るとにこりと笑った。

「じゃあ、デートは延期ですね。残念だな、やっとオフの日が合ったのに」

 槙田がそういいながらため息をついて見せた。

「ごめんなさい」

「仕事ですからね、しょうがないです。また」

 そんなやり取りの後、綾瀬はそそくさとその場を後にするしかなかった。

「槙田警部と親しいんですね。携帯に彼の番号もなければ、自宅に電話がかかってきたこともないのに」

 人気のないエレベーターの方まで歩いてくると、男が口を開いた。綾瀬はそこまで全て把握されていた事に恐怖を覚え、男の方を見る事が出来なかった。

「手書きのメモでやり取りしていたので。全て燃やして処分してたんですけど、気づきませんでした?」

 腕を組みながら動揺を気付かれない様、必死で普通フリをする。到着したエレベーターに乗り込むと、早く降りたくてたまらなかった。緊張しすぎて吐き気がする。先客がいた為、2人きりではなかったことが幸いだ。
 自分の嘘が、どれだけ通用したのかわからない。もう、信用される事はないだろう。今後、監視はもっと厳しくなるかもしれない。
 息が詰まるような思いで、そんな事を考える。秋月が何とかすると言ってくれた事ぐらいしか救いはないが、それすら信用性に欠ける。敵か味方か。彼女と一緒にいる槙田は?
 平静を装った綾瀬の頭の中はぐちゃぐちゃだった。
 建物から外へと出ると、これ以上手を焼かせるなと言わんばかりに車で自宅まで送ると男に言われた。ここで抵抗したところでいいことはなさそうだと判断した綾瀬はそれに従った。

「まぁ、行動に気を付けてください。まだ死にたくはないでしょう?」

 乗り込んだ車内で男はそう言って冷たい視線を綾瀬に向けた。
 秘密を守るためには、手段は選ばないって事か……。
 男は綾瀬の行動次第で邪魔になったら殺すように命令されている。そうまでして守らなければならない秘密が何なのか。自分がそうではない事を祈っていた憶測は、逆に真実味を帯びてしまった。

「お気遣いなく。まだ、死ぬ気はありませんので」

 空はどんよりと曇っている。湿った空気がまとわりつくように自分を包み込んでいる様に思えた。車窓から見える景色はいつもと変わらないはずなのに、見知らぬ街の様だった。



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美雨

Author:美雨
オリジナル小説・詩の下書きblog
「神様は賽を振らない」の連載開始。
※物語の特性上、一部不快(グロテスク/残酷)に思われる表現があります。
※作品の転載・お持ち帰りは禁止です。何かで使用されたい場合は、事前にお声かけください。歓迎★
※詩を歌詞として曲などで使用していただけるかた募集中。また、その逆も募集中です。

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