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神様は賽を振らない 第5章 1

>>01

 警視庁の高官が相次いで殺された事件。4人目は警部補が殺害された。殺された高官の1人の息子である内田 秋生が、刑務所の中から刑務官である被疑者、宮浦 歩を操り4人を殺害させた。被疑者は4人目の警察官の兄だった。自分がISである為、普通である弟をずっと羨み、恨んでいた。人と違う事を気にして生きてきた彼は支配しコントロールしやすい相手と言える。
 内田 秋生は、自分の存在をひた隠しにし自分を閉じ込めた父親とその手助けをした父親の友人である高官の河野 篤志を順番に殺させた。秋生は警視庁の高官の息子である事と未成年であることを理由に、4年前に女性を殺害した事実を伏せられたまま服役していた。
 殺しの手口はこの4年前の事件と酷似しており、内田 秋生が反芻して楽しんでいたと考えられる。
 その伏せられた事実を知っていた内田 秋生を逮捕した4人目の被害者である宮浦 譲は口外しない事と引き換えに昇進。内田 秋生の父親達と共謀した3人目の被害者がこの時宮浦 譲を昇進させた署長の大森 隆平だった。事件の真相に気付きかけていた宮浦 譲は邪魔になり殺害。
 内密に犯人を捕まえなければならなかったこの事件は、今になって、やっとひと段落ついた。そしてこの報告書もまた、秘密裏に処理されるのだろう。
 槙田は大きなため息をついて、既に冷めてしまったデスクの上のコーヒーを飲んだ。
 激しい運動はまだできない。安静にしていろと医者には言われたが、ただでさえ人手が足りず、周りは皆休みなく働いている中、まったく仕事をしないでいる事は難しい。最近は精神的にも肉体的にもボロボロと言った感じで、さすがの槙田も落ち込んでいた。本人は気丈に振る舞っていても、周りは何となく気付いている。
 チームはバラバラに動いている状態で、槙田が毎日顔を合わせているのはチームとは全く関係のない人物だった。

「ちゃんと眠てますか?」

 そう槙田に話しかけてきたのは秋月 凜だった。彼女は10ゲート東の後方支援と、捜査支援分析センター長である山根和久警部の捜索をしている。10ゲート東では水無瀬と千野とアレクセイが作戦に参加中である事、センター長の不在はまだ極秘事項になっているが、その事実を槙田が知っている事で、多忙な彼女の手助けをするように久遠に指示された。

「他の班員より、ゆっくり寝させてもらってますよ」

 槙田が苦笑いで言った。

「でも、目の下にクマできちゃってます。嫌な夢でもみてるとか?」

 彼女専用の個室に、特別に槙田用の簡易デスクが用意され、部屋の片隅へと設置された。槙田がそのデスクを使うようになって1週間程が経過していた。秋月に指摘された通り、ここ数ヶ月は眠れない日が続いている。日増しに状態は悪化し、普段から短い睡眠時間に慣れている槙田でもしんどさを感じていた。

「現実の方がよっぽど悪夢みたいな状況ですけどね」

 そう言って槙田はため息をついた。手元には死亡した警官のリスト、補充する人員のリストがある。
 10ゲート東の戦闘は長期戦になるだろうといと予測している。一体どれだけの人間が死ぬことになるんだろうか。死亡者リストに自分の知る名前がないことに安堵している自分に罪悪感と嫌悪感が渦巻く。

「……確かに、そうかもしれないですね。慣れちゃうのも嫌な感じがするし、誰かが死んだことよりも、どうやって生きている彼等を救えるだろうって、そればっかり考えるようになりました。1人でも多くの人に、生きて帰ってきてほしいです」

 秋月のデスクには、3台のパソコンが設置されている。正面に丈夫の壁には、たくさんの液晶ディスプレイが並ぶ。52台あるそうだ。様々な場所に設置されている監視カメラの映像が、リアルタイムで映し出されている。
 デスクにチェアに座っていると、小柄な彼女の姿はほとんど見えなくなる。秋月がどんな顔でそんな事を口にしたのか、槙田から窺い知ることはできなかった。
 書類の上にポタポタと何かが垂れた。槙田はそれが自分の頬を伝って落ちていることに気付き、自分でも驚いた。慌てて手で拭う。一体いつぶりに涙なんて流したのか、自分でも思い出せない。自分が思っている以上に、参っていたようだ。

「ハル君はがんばりやさんでしかも真面目だから、ずっと気を張ってるし、いつもどこかで失敗した時の自分を責めてるんじゃないですか? 眠っている時ぐらい、自分のことを解放してあげるといいですよ」

 手を休める事無く、秋月がそう続けた。
 槙田は湧き上がるような感情の波を静まらせようと深呼吸をした。涙はなかなか止まらなかった。母親に抱きしめられたような、死んだ娘に頭を撫でられているような気分だった。

「ずっと昔にも、似たような話をしたことあったなぁ。確か……桐島さんと」

 秋月の口から出た思いもよらない名前に槙田は驚いた。驚きのあまり、涙も止まる。

「えっ? 桐島警視長ですか?」

「違いますよ。桐島 直(キリシマ ナオ)警部。桐島さんがグール対の班に入ったばっかりの頃です。わたしも同じ班だったんですよ……」

 その話は初めて聞いた。槙田は桐島と1度だけ会った事がある。彼に関わる事件を担当した事もあった。これもまた、国家機密が絡んでいる。
 いったいどんな人だったんだろう。
 槙田はその事件以降、桐島という男に興味があった。だが、誰に何を聞くことも許されなかった。事件は、最悪なかたちで幕を閉じ、桐島も処刑された。

「どんな人だったんですか?」

 槙田は思い切って聞いてみる事にした。秋月なら、自分を信用して話してくれるのではないかと思ったからだ。

「優しい人です。ハル君にちょっと似てます」

 そう聞いて、槙田は妙な親近感を覚えた。槙田が最後に見た彼も、さっきまでの自分の様に泣いていた事を思い出した。涙は、ぽたぽたと娘の顔へ落ちていた。
 可哀そうに。
 槙田はその時、そう思いながら取り押さえられ拘束された彼を見ていた。もうずっと昔の事なのに、鮮明に覚えているシーンだ。
 急に秋月のデスクにある直通電話が鳴りだして、槙田の意識は引き戻される。

「はい、秋月です。了解です。はい……、そうですね。はい」

 槙田はどこか憑き物が落ちたように落ち着きを取り戻した。泣いたせいだろうか? 少し気分がすっきりした。

「すみません、ちょっと顔洗ってきます」

 槙田はそう言って立ち上がった。

「あ、ちょっと待ってください。尚ちゃんがハル君にかわって欲しいそうです」

「尚?」

 なんであいつが秋月さんへの直通の番号知ってるんだ? 秋月さんが教えたのか?
 槙田はその足で、秋月のデスクの方へと向かい、彼女が持っていた受話器を受け取った。

「はい、槙田」

 そう言って電話に出ると、明るい声で尚が言う。

「今から野々宮警部と合流しまーす」

「え? 一の退院は来週じゃなかったのか?」

「今日に変更になりました」

「秋月さんから、退院したらこっち手伝ってねって言われてて」

「……そうだったのか。わかった」

 俺は聞いてないぞと思いながら、槙田は電話を切った。
 今の彼女を見たら、あの人はどんな風に思うのだろうと槙田は想像した。きっとあの涙からして、今の彼女を望んでいたはずだ。
 変わりましたよ。その成長を、一緒に見たかったですよね。
 自分にも娘がいた。まだ結婚もしていなかったあの頃の自分よりは、彼の心情が解るような気がする。

「顔、洗ってきていいですよ。その後この資料に目を通してもらえますか?」

 座っている秋月が見上げる様に槙田に言った。

「了解です」

 デスクの上には、見た事もないような目薬が数種類用意されている。それに彼女が手を伸ばそうとしているところで、また電話が鳴った。

「はい、秋月です」

 槙田は顔を洗うべく部屋を出て行った。
 隣接する部屋には、彼女の部下が20名ほどいる。更に別室にも大勢いるわけだが、彼の少し腫れた瞼に潤んだ目元、鼻をすする様子を数人が目撃。秋月副長が槙田を泣かせたという噂が、あっという間に広まっていた。
 それだけなら別にどうってことない。
 問題はこれからだ。
 受け止めきれない真実がゆっくりと槙田へと近づいていた。




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美雨

Author:美雨
オリジナル小説・詩の下書きblog
「神様は賽を振らない」の連載開始。
※物語の特性上、一部不快(グロテスク/残酷)に思われる表現があります。
※作品の転載・お持ち帰りは禁止です。何かで使用されたい場合は、事前にお声かけください。歓迎★
※詩を歌詞として曲などで使用していただけるかた募集中。また、その逆も募集中です。

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