1012345678910111213141516171819202122232425262728293012

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

神様は賽を振らない 第4章 6

>>06

「何これ?」

 病室のベッドに横たわりながら、一が言う。
 全治一ヶ月の負傷。見た目的にはとても一ヶ月で解決するとは思えないような見てくれだった。

「何って、お見舞いにきまってんだろ」

 千野が一の足元の方から声を上げる。その一言に周りの視線が集まった。彼はそう思って発言しているのだが、周りの考えは違うようだった。

「え? 何なのコレ?」

 周りの反応に千野がまた口を開いた。

「いや、君の言うとおり『見舞い』ですよ」

 そう言ったのは久遠 了(クオン リョウ)だった。グール対の最高責任者だ。一のすぐ横、この個室の一番奥で椅子に座っている。

「『たまたま』皆一緒になっちゃっただけですよね。そういうことにします」

 そういうことにしますって……。
 千野は面食らったように口をポカンと開けて、そうにっこり笑って言った秋月 凜(アキヅキ リン)の方を見た。彼女は久遠の隣に立っている。
 野々宮 一の知り合いではあるのだが、この2人が槙田班と同じ日同じ時間にお見舞いに来た事に、皆何かあると考えている。
 そもそも、槙田が全員で一の見舞いに行くと言った時点で、千野以外は不審に思っていた。そんな事は今までに一度もないからだ。しかも槙田は負傷しており、彼自身も入院していて退院したばかりだった。まだ現場へ復帰できる状態でもないのに、急に署に顔を出してそんな事を言いだしたのだ。
 包帯だらけの一を6人が取り囲んでいる。

「あんまり長居もできないから本題に入ります。ここは監視カメラはあるが音声は録音されていないから都合がいいんだ。呼び出したりすると色々詮索する人がいるんですよ」

 久遠が眼鏡を中指で押し上げながら言った。彼はこのメンバーに話をする為に見舞いを装って来たのだ。
 ここはグール専門の病院で、部屋のドアは常にロックされている。監視されてはいるが、ここでの会話が外に漏れる事はない。

「GC研究養護施設での事件だが、報告によると総勢62名中、19名が脱走していることがわかりました。殆どのその他のグールは亡くなっています。居場所はGPSで追えるので、捕獲に努めている状態ですが、19名はA館所属のグールであり難航中です。人手も足りていないので、水無瀬さん、千野君、アレクセイ君に手伝ってもらうことになります」

 そこまで久遠が話したところで、一の寝ているベッドを挟んで久遠の向かいに立っていた尚が声を上げる。

「あの、わたしは?」

「待機してもらいます。槙田君が復帰したら、10ゲート東の方へと参戦してもらう予定です」
 久遠がそう尚に言うと、驚いたように槙田が口を開いた。皆黙ってはいたが、秋月以外は槙田と同様に内心驚いていた。

「えっ? 10? ですか? あ、でも私への処分は?」

 早口でそう言った槙田を落ち着かせるように、久遠がさっきと変わらないペースで話を続ける。
「まだ極秘事項ですが、11ゲート東は事実上陥落したと言えます」

 彼の言葉に、皆愕然とした。
 千野は異様な渇きを感じて唾を飲み込む。GC研究養護施設での事件の時も、少人数で壊滅させている事を思い出し、顔をしかめた。

「養護施設での槙田君の規約違反は、私の一存で言及しないことになりました。あの状況下で部下が問題行動を起こすことなく、最後まで任務を遂行できた事を評価した結果です。まぁ、煩い輩もいるので、今後とも気を抜かないようにして下さい」

 戦闘員が監視役なしの単独行動をする事は許されない。
 槙田と水無瀬を助けるためとはいえ、千野とアレクセイが単独行動をとった事は、槙田が指揮官を降ろされる程の問題だ。もちろん、処分を受けるのは槙田だけではない。

「千野とアレクセイは……」

 そう言った槙田のさっきよりも声が小さかった。今回の事は自分のミスであって、2人に落ち度があるとは考えられなかった。部下の責任を負うならまだしも、自分の失態で部下に処分が下ると思うと、自分が処分される以上に辛い。
 千野もアレクセイも顔色一つ変えずにそのやり取りを静観していた。処分を受ける事はわかった上で選んだ行動だった。また同じ状況に陥ったとしても、あれが最善の策だったと思っている。例え処分されるとわかっていても、同じ行動をとる。
 仕方がないよな。
 千野はそんな言葉に全てを集約し、辛かった昔と同じように今回の事も乗り越えようとしていた。

「まぁ、一も単独で戦闘状態にあったわけです。けれど、そうならざる得ない状況と判断できます。応援要請も拒否され孤立無援。情報も少なすぎましたし、敵方のグールの人数も多かった。全滅してもおかしくない。戦闘員の彼らの処分はなし。その代わりと言ってはなんですが、槙田君は1年間の減給処分」

 それを聞いて、槙田は胸をなでおろした。
 まじかよ!?
 千野とアレクセイは信じられないと言った感じで顔を見合わせた。戦闘員を続けられないかもしれないと考えていたからだ。

「ごめんなー、班長」

 千野が嬉しそうに槙田に向かって言った。
 彼は今の自分の居場所が気に入っている。それを失わずに済んだ事は、彼が思っていた以上の喜びだった。
 槙田はそんな彼とアレクセイに困ったような笑みを返すと、久遠に頭を下げた。

「……すみませんでした。感謝します」

 もしかしたら、槙田はここに来るまですごく怖い思いをしてたんじゃないかと千野は思った。覚悟はしていても、自分と槙田とでは失うものの大きさや背負っているものが違う気がした。
 それにしても、こんな偉い人が直々にこの話をする為だけにここに来ているのがひっかかる。これだけじゃなかったりして?
 ここまでいいニュースが続いたが、急に嫌な予感がした。

「他にも何かあるんじゃないの?」

 一が久遠の方を見ながら言った。久遠がその視線を秋月へと流すと、促された様に口を開く。

「以前あなた達がインという名の女の子を逮捕した事件、憶えてますか?」

 ふわふわとウェーブした髪を片耳に掛けながら、全員を見まわすようにしてそう言うと、秋月は話を続けた。

「インちゃんの取り調べ室での出来事が録画されていたテープは、誰かが処分したみたいですね。因みにあのテープはダミーなんです。本物は管理者であるわたしの手元にあります。あの時何があったのか、水無瀬さんと千野さん以外の、その場に居た人達はご存知ですよね」

 槙田は病室の床に視線を落としたまま、動かなかった。
 千野は何の事かわからずキョロキョロとメンバーを見た。彼とは対照的に、そこに居なかったはずの水無瀬は、秋月の話の意味が解っているようだった。千野は面食らってしまった。
 オレだけ何も知らないのかよ。
 憤りを感じる彼の様子は、誰もが見て取れる。

「あなた達意意外で知っているのは、わたしと久遠さんだけです。尚ちゃんを起用する事のリスクは承知の上でした。けれど……正直、不安が大き過ぎます」

 一番動揺していたのは尚だった。今にも泣き出しそうだ。

「僕と槙田サンに任せるのが不安なんでしょ?」

 一が言う。

「それは……」

 言いかけた秋月を制して、久遠が口を開いた。

「いや、彼女を任せるとするなら、2人がいるこの班が適任だと今でも思っています。2人はどう思いますか? 彼女は戦闘員として、自分の命を預けられる相手ですか? 彼女が暴走した時、止められる自信がありますか?」

 俯いていた槙田が顔を上げ、一の方を見た。

「戦闘員として信頼できる。でも、能力的に僕1人じゃ暴走した尚は殺せないかもね。槙田サンが正しい見極めをして、スイッチを押せれば大丈夫なんじゃない?」

 いつもと変わらない口調で一が言う。
 行動を共にしている間、彼等が理性を失った時に対処できるように、監視役は戦闘員を自爆させるスイッチを常に携帯している。

「……久遠警視正は、取調室でのあの時、私はスイッチを押すべきだったと考えていますか?」

 槙田が今度は久遠の方を向いて重たい口を開いた。

「いいえ。しかし、異変に気付いてからの判断が遅かったのは確かです。もっと迅速な対応を求めます」

 久遠はじっと槙田の方を見据えて言った。

「彼女は戦闘員として必用な存在です。私も野々宮と同意見です。自分を信じます」

 その言葉に、久遠は腕を組み数秒何か考えているようだった。が、急に立ち上がり言った。

「わかりました。私たちは先に出ます。ちょっと長居しすぎましたね」

 腕時計に視線を向けながら、そそくさとドアの方へと歩いていく。
 慌てて隣に座っていた秋月も立ち上がる。今日は大きなカバンは持っていなかった。

「ハル君元気出してくださいね! お邪魔しました!」

 思わず秋月の『ハル君』に千野が噴出した。彼女の後姿を見ながら、何となくうさぎみたいだなと思った。

「頼みましたよ」

 指紋認証をして、自動で開いたドアから病室の外へと出て行きながら、久遠が振り向きざまに言った。

「頼みますよー」

 久遠と同じことを繰り返し、秋月も出て行った。

「なんか、経歴とイメージが違いすぎる人ですね」

 水無瀬が口を滑らせたように言った。

「あの人、色々な意味ですごいよね」

 アレクセイがふっと笑って言った。

「え? アレクあの人知ってんの? 誰だよあれ? 班長の元嫁かなんか? つーか、だいたい想像つくけど、何があったわけ?」

 千野はため息交じりにそう言った。




にほんブログ村 小説ブログへ
にほんブログ村


Web小説 ブログランキングへ
関連記事
スポンサーサイト

テーマ:オリジナル小説
ジャンル:小説・文学

コメントの投稿

secret

top↑

comment

trackback


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

top↑

プロフィール

美雨

Author:美雨
オリジナル小説・詩の下書きblog
「神様は賽を振らない」の連載開始。
※物語の特性上、一部不快(グロテスク/残酷)に思われる表現があります。
※作品の転載・お持ち帰りは禁止です。何かで使用されたい場合は、事前にお声かけください。歓迎★
※詩を歌詞として曲などで使用していただけるかた募集中。また、その逆も募集中です。

最新記事

カテゴリ

リンク

ブロとも申請フォーム

人気ブログランキング

にほんブログ村

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。