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神様は賽を振らない 第4章 ②

>>02

 閉鎖された空間で、首輪を付けられ飼われている。
 別に文句はない。  暮らしている場所は快適だし、喰べるものにも困らない。飼い主が一緒なら、外にだって出ることができる。
 命を掛けてオレが得られる権利だ。

 早朝4時すぎ。千野は自分のベッドを抜け出し、同じ建物内にある仕事場へと向かった。これだけ早いと、まだ誰も来ていない。今日は徹夜で仕事をしている者もいないようだった。自分以外にもこの建物に誰かがいるとは思えないほど、静まり返っている。
 室内に入った千野は、いつも仮眠をとるソファーへと直行した。そこに横になり、眼を閉じる。久しぶりに仕事に復帰するせいか、妙な夢を見て、その後眠れなくなってしまった。2時間は寝ようと粘ってみたが無理だった。仕事に支障がでないように、できるだけ睡眠をとっておきたかった千野はソファーで眠る事にした。以前にも同じような事があり、ここで寝た事が何度かある。不思議とここだと眠れてしまう。

「え? 千野もう復活なの?」

 千野は自分の名前に反応するように目を覚ました。壁に掛かっている時計を見ると、あれから2時間が経っている。

「何で嫌そうなんだよ」

 そう言って欠伸をしながら、千野は部屋に入って来た槙田へと言い返した。

「嫌そうなんじゃなくて、驚いてるだけだろ。俺なんてまだ腕痛いんだぞ。お前もう左腕動かせるのか?」

 入口に立っていた槙田はそう言いながら千野の横をすり抜け自分の席へと座った。
 千野の左腕は、グーラに噛まれ粉砕骨折していた。粉砕骨折は完治に時間がかかるうえ、後遺症も残りやすい。いくら千野がグールだとして、2ヶ月程度で復帰した事に槙田は驚いていた。

「人手足りないからってかなり無茶な手術したみたいだけど、おかげで早く治ったよ。動かせるし。痛みもないし。リハビリがんばったし」

 千野がそう言って、左腕を動かして見せた。
 前にも大きなケガは何度かしている。大体の怪我は簡単に完治する為、本当の意味で体を張っていると言える。死に対する危機意識も、人間だった頃と比べれば低くなった。それこそ初めのうちは、ああもうだめだ、これで死ぬんだと思うようなこともあったが、だんだんとそんな事を考えないようになってきている。

「助かる」

 人手が足りないのは本当だ。かなりシビアに足りていない。槙田は千野にそう言ってパソコンを立ち上げはじめる。
 本来なら8時出なのだが、槙田は大体この時間に到着している。1番乗りであることが多い。

「そう言えばさ、オレを噛んだ女の子。シェームと繋がりあったの?」

 千野は捜査のその後の報告をまだ受けていなかった。自分で調べる事はできるが、その為にはここに復帰する必要がある。

「あった。13ゲートでシェーム達に生きるすべを教わっていたらしい。そして、12ゲートに放たれた」

「で、シェームの事は何か聞き出せた?」

「たいした情報は持っていなかった。まぁ、子どもだからな。グールが団体になって行動しているのは間違いなさそうだ。そのリーダーがシェームだな。味方を増やす為に中心になって動いている様だ。食糧不足を利用して肉をばら撒いて、勧誘していたらしい」

 まるで街でクスリでも売る売人のようだと千野は思った。あの時、咄嗟にそんな行動に出るやつもいるのかと思うと気分が悪い。悪人を何人も見てきたが、それでも慣れることなく嫌悪感は湧き上がる。

「何それ、どうやって手に入れてんの?」

 千野の質問に槙田が頭をかきながら答える。

「わからん。13ゲートの住民だけが食料になっていたとは思えないな。アウトブレイク直後は別として、その後死体を保存してとっておいたとか?」

「何それ、思考が人間っぽい。シェームってやっぱ突然変異かな」

 千野は思ったことをストレートに口にした。

「……どうだかな」

 槙田は何か引っかかる事でもあるようだが、それを口にする事なく言葉を濁した。
 シェームの事について、槙田と一が何か隠しているのは鈍い千野でも気付いている。だが、職務上話せない事なんてものはザラにあり、特にこの課は国家機密との絡みも相まって、秘密なんてものはそこら中に転がっている。それにいちいち噛み付いている暇もない。
 自分達は、目の前のグールを捕まえる事にだけ集中する。考えすぎたらだめだ。よそ見もしない。そうして生きていなければ、首を欠き切って死にたくなる。
 実際、突然変異でグールに成った場合の自殺率は高い。そうしなければ、大切な人を守れない。そうしなければ、人間として死ねない。欲求に我を忘れ誰かを殺めてしまって、またはそうならない為に、自ら死を選んだ同類の遺体を幾つも目にしてきた。
 気持ちはよくわかる。
 それでも死にたくないと思う事。それでも生きる事を選んでいる自分はごう慢だろうか。
 考え出すと苦しくて、今までの何もかもが無駄に思えてしまう。だから考え過ぎない。だからよそ見はしない。千野の中のルールだ。
 遠くに知った声、人の足音を感じて千野は時計に目を向けた。もちろん、槙田はその事に気付いていない。そろそろ7時になる。ソファーから立ち上がり千野自分のデスクへと向かと、その直ぐ近くの席に座っている槙田がファイルを差し出した。

「前回の事件の報告書。一応読むだろ?」

 復帰をする時のいつものやり取りだった。槙田は千野に言われる前に報告書を準備しておいてくれている。

「どーも」

 そう言って、千野はファイルを受け取って席に着いた。大体の事は聞いた話でわかったが目を通す事にしている。終わりをちゃんと見届けられなかったままでは、どうもすっきりしないのだ。
 ドアのキーロックが解除される音がして、部屋に人が入ってくる。

「あー、千野さんだ!」

 騒々しくそう声をあげたのは尚だった。その後ろには一の姿がある。

「はよ」

 短くそう答えただけで、千野は手元の資料に直ぐに視線を戻した。

「つめたい」

 尚が不服そうにそう呟くが千野は気にしない。
 2人もそれぞれ自分のデスクへと向かう。尚に無理矢理起こされたのか、一はまだ半分眠っているような様子だった。目を擦りながら欠伸をしている。
 その後5分もするとまたドアが開く。

「お早うございます」

 そう言って入ってきたのは水無瀬だった。千野は彼女の姿を見て、また少し痩せたなと思った。が、それを以前口にしてセクハラだと言われたので、つい口に出てしまわないように気を付けた。皆が挨拶を返す。アレクセイが登場したのは、それから40分程度後の事だった。
 全員が揃うと槙田が会議をスタートさせる。

「水無瀬、12ゲートの報告を頼む」

 槙田が水無瀬の方へ視線を送りながら言った。
 何気にこうして班員が全員揃うのは久しぶりだった。交代で12ゲートと1ゲートを往復する生活が続いている。
 水無瀬は頷くとパソコンのキーを打ちながら話し出した。

「一般市民による被害者は26名に拡大。逮捕者は2名。といっても、1名は自害。1名は射殺されています。依然、私達があたった事件で逮捕した少女、インの話以上の情報は得られていません。ゲートは軍の応援も受けて防衛強化にあたってはいますが、11ゲート東でアタックを受けたとの報告がありました。1ゲートから11ゲートからの増員要請により、そちらに人員が割かれている状態です。11ゲート東の防衛にあたっている署員の話によると、確認できたグールの人数は4名。そのうち1名を射殺」

 相手の人数は把握できないが、じわりじわりと確実に侵略されていっている事がわかる。軍が総動員されるのは時間の問題だ。他国への応戦要請は既にされているだろうと想像がつく。
 淡々と話される報告を、皆口を挟むことなく聞いていた。途切れたところで千野が言う。

「11ゲート東の被害情報は?」

 水無瀬が言いたく無さ気に口を開く。

「……警官5名死亡、6名が重傷。戦闘員1名が重傷。軍人3名死亡、16名重傷」

 被害者は増え続けている。特に、一般市民以外では警官の死傷者が多い。特殊な戦闘経験もないまま、任務にあたっている警官も多いからだ。グールに遭遇した場合、戦う事よりも退避し応援要請をすることが優先される。だが、それが通用するケースはあまりない。

「グールの中にシェームはいるの?」

 今度はアレクセイが声をあげた。

「いえ。いないようです。ただ防犯カメラにシェームと思われる男からメッセージが残されていたようです」

 水無瀬はそう言って、皆に見える様に自分の見ていたノートパソコンをくるりと回転させた。再生された画像は粗かったが、画面に映りだされた男が以前見たあの男と特徴が酷似しているのは解る。それを観た誰もが男がシェームであると判断していた。

『……た、たすけて』

 逃げようとしたが足がうまく動かず倒れ込んだ50代程に見える1人の男性が、床を這うようにしてもがいている。その背中を踏みつけ抑え込みながら、シェームと思われる男は男性の頭部へと銃口を向ける。躊躇いなく発射された弾は男性の頭部を撃ち抜いた。
 子どもの鳴き声。悲鳴。逃げ惑う人々。

『不味い。喰えたもんじゃねぇな』

 シェーム以外の仲間と思われるグールが、拾い上げるようにして片手で持ち上げた子どもに噛みつくが、そう言ってボールでも投げるようにして瀕死になった子どもを壁へと打ち付けるようにして投げ捨てる。
 抵抗している子ども、子どもを守ろうとした大人もいるが、多少相手に怪我を負わせるのが精いっぱいと言ったところだった。結局は殺される。
 目を逸らしたくなるような映像を見ながら、不味いと言った言葉を聞いて、ああやっぱりそうなのかと千野は思った。

『心の貧しき人 天国は彼らのものである。幸いなるかな 悲しむ人 彼らはなぐさめを得るであろう』

 呪文のように聞こえてくる言葉は、シェームらしき男が言っている。そう言いながら、眼に入った“標的”を銃で撃っている。

『幸いなるかな 優しき人 彼らは地を嗣ぐであろう。幸いなるかな 正義に飢え乾いている人 彼らは満たされるだろう。幸いなるかな あわれみある人 かれらはあわれみを得るであろう』

 映っているいるグールはシェームを含め3名。特に2名は戦闘力がかなり高そうであることが見て取れた。
 尚は我慢していた涙を溢しながら、それでも映像を見続けている。それに気付いた隣の席のアレクセイが彼女の頭を優しく撫でる。

「これって、GC研究養護施設?」

 千野が言う。慣れたいとは思わないが、何度見てもこんな惨状は慣れることがないなと思う。
 
「はい。A館だけが襲撃を受けました」

 水無瀬がそれに答える。GC研究養護施設とは、グールであると判定を受けた6歳から12歳未満の子どもが隔離収容されている研究養護施設である。通称学校と呼ばれ、一般的な小学校を家として生活しているようなものだ。2つの建物があり、集団で生活できる子どもと、それができない子どもとで分けられている。

『幸いなるかな 心の清い人 かれらは神をみまつるであろう。幸いなるかな 平和を作る人 かれらは神の子ととなえられるであろう』

 A館には人の心を持てる可能性のあるとされる、集団生活のできる子ども達が生活をしている。彼等は、その可能性を持つ、人間とグールのハーフである子ども達とそれを促す者を抹殺したと言える。

『幸いなるかな 従順な人 彼らは大地を手にするだろう』

「生存者は?」

 耳を塞ぎたくなるような銃声は続いている中、一が口を開いた。

「地下シェルター内に逃げ込んだ研究員だけです」

 研究員は純粋な人間だけだ。グールとの混血は全滅したという事になる。

『幸いなるかな 義のために迫害される人 天国は彼らのものである』

 鼻歌でも歌うような、シェームの声が耳にまとわりつく。
 千野の眼は紅く色を変えていた。彼の怒りと殺意がそうさせている。






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美雨

Author:美雨
オリジナル小説・詩の下書きblog
「神様は賽を振らない」の連載開始。
※物語の特性上、一部不快(グロテスク/残酷)に思われる表現があります。
※作品の転載・お持ち帰りは禁止です。何かで使用されたい場合は、事前にお声かけください。歓迎★
※詩を歌詞として曲などで使用していただけるかた募集中。また、その逆も募集中です。

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