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神様は賽を振らない 第4章 ①

>>01

 静寂をの終わりを告げる様にバンッという音が鳴り響いた。朝陽の代わりとも言える蛍光灯が点灯する。
 少年男はベッドから起き上がり、いつも通り身支度を整える。顔を洗い、髭を剃り、着なれた服に袖を通す。たいして変わり映えのない1日の始まりだ。
 30分後にはガチャンッという音がして、出入り口のロックが解除される。
 少年はドアを出てその前に立つ。彼の隣にも、同じように数名の同世代の少年達が立っていた。正面にもずらりと並んで立っている。

「B・Cブロックの人数」

 室外へと続く大きなドアの前に立っていた看守役が、良く通る声で言った。

「Cブロック1階14名」

 少年から向かって右側の先頭に立っていた子が声を上げる。

「Cブロック2階15名」
 
「Bブロック1階14名」

「Bブロック2階15名」

 ここは2階まであるセクションだ。其々先頭の者がそう言い終わると、出てきたドアの方へと向き直り全員が背を向ける。看守の4人が各自バラバラになり列へと小走りに歩いていく。彼等は手にしていた機械を、並んで立っている少年達の首の後ろにあるバーコードへと向ける。埋め込まれているチップが正常であり、本人確認がとれると、好きなように過ごすことができる。
 ある程度ではあるが……。

「開けろ」

 全員の確認が終了次第、大きなドアが開錠される。許可された範囲内であれば、何処へでも行ける。1日1回食事も支給される。自分の部屋にある風呂もトイレも自由に入れる。スポーツをする事もできるし、音楽を聞いたり演奏したり、仕事をしたければする事もできる。看守役と呼ばれる彼等も同類だ。人間っぽい生活を継続したくて、看守役の様に仕事をする者も多い。
 しかし、外の情報は何もない。テレビもラジオもインターネットも、すべて禁止されている。更にそれに繋がる映画や書物も禁止されている。
 外部との接触があるとすれば、面会に来た人物と会う事位だ。基本的にその面会も1親等までの血縁者に限られる。ただ、面会人はそう多くない。彼等の家族だと知られると迫害を受けるからだ。

「GN0414。今日、面会があるそうだよ」
 
 少年が看守役の1人にそう声をかけられた。面会人などここに来てから1度も無かった少年は驚いて聞き返す。

「オレに?」

「間違いない。予約が入ってる。会う気があるなら、8時に面会室へ来てくれ」

 少年はわかったと返事を返し、誰だろうと思いを巡らせた。
 父親は既に病死している。母親は、彼を捨てた。姉は、彼に怯えている。
 2人以外に面会できる相手はいないはずなのだが、2人が自分に会いに来るとは考えられない。それでいいと自分でも思っている。会わせる顔がないと、別れた日からずっと思っている。
 少年はここに来て3年になる。生活にはすぐに慣れた。安心感もある。
 ここのセクションで生活しているのは、突然変異でグールになった12歳から18歳以下の少年だ。たまに人が増えたり減ったりする。
 面会の時間まであと40分はあった。少年は伸びをして、大きなドアを出ていく。中庭をランニングするのが彼の毎朝の日課になっているからだ。それは体力が続かない彼等にとっては珍しい事だった。無心で走り込むのが好きで続けている。余計な事を考えずに済むからだ。
 昔から身体を動かすのが好きだった。運動神経もよく、だいたいのスポーツは人並み以上に熟し、足も速かった。過去形にするのは間違っているのかもしれない。身体能力は以前に増して上がっている。グールの中でも、とびぬけている方だ。ただ体力は他のグールと同様に、反比例するように伸びずに下がっている。それでも体力はある方ではあるが。
 まるでスポーツ選手のように、基本的に身体を動かして生活している。他のグールよりも体力があるのはそのせいもあるのかもしれない。ただ、体力の問題でここまでのめり込んで身体を動かしている者は他におらず、あいつは本当にグールなのか? と噂になる程だった。
 おかげで少し孤立している。変わり者扱いされ、距離を置かれていた。少年と一緒にランニングをするような相手はいない。
 彼が走っている中庭は学校の校庭ぐらいの広さがあり、土に木も植わっている。花壇もあり、芝生もある。街灯にベンチがあり、天井さえ見なければそこは屋外の様に思える。けれど、ロの形で建物に囲まれた中庭は吹き抜けではない。見上げれば遠くに空ではなく天井が見える。天候も変わる事がない。気温もある程度一定に保たれている。
 それでも植物に触れたり、見たりしていると何だか落ち着いた。だから少年は1日に1回は中庭へ出て走っている。
 息を切らし、痛みを感じる横っ腹を押さえながら、少年は仰向けに芝生へと倒れ込んだ。あと3年後には、ココとは違うまた似たような場所へと移される。ソコが終の棲家になる。他の施設への移動も地下道を使われる為、彼が外の世界を感じる事はもうない。少年はそれを覚悟しているが、たまに無性に死にたくなった。
 右腕にしている腕時計を見ると、面会時間まであと15分になっていた。少年は息が上がったまま立ち上がり、自室へと向かって早歩きで歩き出した。
 汗だくだった彼は部屋に戻りざっとシャワーを浴びて、新しい服に着替え、足早に面会室へと向かった。既に少し遅刻気味だ。

「GN0414?」

 面会室のドアをノックし中へ入ると、強化アクリル版で仕切られた向こう側に、警官の姿をした50代ぐらいに見える男性が座っている姿が見えた。男性がここの受付をしている。所定の時間に彼が来るのを待っていた所だった。

「……はい」

 そう答えながら、少年は急に緊張してきた。面会の相手が母親でも、姉でも、会いたいけど会いたくない。複雑な気持ちが湧き上がってくる。

「GNの認証スキャンをするから、そこの線の所に立ってもらえるかな?」

 男性に促されるまま、彼は床に描かれていた赤い線の所へと立つ。後方から光を感じる。毎朝やっているチェックと変わらない。スキャンは直ぐに終わった。

「はい。間違いないようですね。では。3号室へどうぞ」

 受付の警官が事務的にそう言うと、別室へと続く扉のロックが外された。ドアを開け、その先の廊下へと足を踏み入れる。そこには番号が付いた扉が5つ並んでいる。少年は受付の警官に言われた通り3番のドアの前に立ち、ごくりと唾液を飲み込んだ。
 どうにでもなれといった勢いでドアを開ける。

「おはよう。遅かったね」

 ここも強化アクリル板で仕切られている。
 向こう側に座っていたのは、母親でも姉でもなく、白衣姿の女性とスーツ姿の男性だった。少年は眉を潜める。相手が人間である事は解っている。

「感情が顔に出過ぎだよ」

 白衣の女性がそう言って子どもの様に笑った。

「まぁ、座って」

 立っていても仕方がない。少年はスーツの男性にそう言われ、目の前にあったパイプイスへを大きく自分へと引き寄せて座った。相手と少し距離ができる。

「俺達は政府に派遣されて来ている。今は名乗れない。幾つか君に質問をするから答えてほしい」

「何かの実験?」

 少年は眉間に皺を寄せたまま言った。

「まぁ、そんなものかな?」

 白衣の女性が軽いノリで答える。
 医者か研究者か?
 少年は答えようによっては自分が何かの実験台にされるのではないかと心配になった。これ以上モルモットのように飼われるのは嫌だ。そう思いながら、腕を組み女性を睨んだ。

「単刀直入に聞くけど、君は人殺しをどう思う?」

「は?」

 男性の質問に、咄嗟に聞き返していた。男性がいったい何の話をしようとしているのかわからない。不信感は膨らんでいくばかりだ。

「君は人殺しを……」

 男性が言い直そうとしている所を、声をかぶせて少年が言う。

「どうもこうも、人を殺していいわけないだろ」

 少し強い口調になっていた。

「グールは人だと思う?」

 続け様の質問に、少年は怒りすら感じた。人間だと思っている人は、そんな事を口にしない。自分がバケモノだと言われているようで気分が悪かった。それは事実だが、自分が望んでそうなったわけではない。成りたくてなったわけではない。その気持ちが、怒りへと変換されている。

「……人の姿をしたバケモノだろ」

 吐き捨てるようにそう言うと、男性から俯く様にして視線を逸らした。
 スーツ姿の男性の方は、そんな少年を落ち着いた様子で観察している。

「君はグールだが、君にとって人間は食糧か?」

 俯いた視線の先で、無意識に揺すっていた自分の足が見える。その足を止めて、少年は深く息を吐いた。

「食料である前に人だよ」

 白衣の女性は無表情でじっと少年を見ている。何を考えているのかわからない。少年は何となく彼女の事を人間らしくないなと思った。

「お姉さんを襲ったこと、後悔してる?」

 抑揚のない声で女性が言った。

「当たり前だろ!! 2度とごめんだ!」

 少年は怒鳴りながら立ち上がっていた。パイプイスが音を立てて倒れる。

「……悪かった。辛い思いをさせて」

 そう言って、スーツ姿の男性がイスから立ち上がり頭を下げた。思いもよらない相手の行動に、少年はぽかんと口を開けたまま声が出ない。
 男性の隣に座っていた女性も立ち上がった。
「もう宜しいですか?」

女性に向かって男性が声をかける。

「うん」

 白衣姿の女性はそう短く答えると、少年の方をチラリと一瞥して出口であるドアの方へと向かって行った。

「またな、千野 高くん」

 男性は少年に向かいそう言いうと、女性の後を追うようにして面会室を出て行った。
 姉を殺しかけてから4年になる。
 少年はどうしようもできなかったその事を、今も後悔している。






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美雨

Author:美雨
オリジナル小説・詩の下書きblog
「神様は賽を振らない」の連載開始。
※物語の特性上、一部不快(グロテスク/残酷)に思われる表現があります。
※作品の転載・お持ち帰りは禁止です。何かで使用されたい場合は、事前にお声かけください。歓迎★
※詩を歌詞として曲などで使用していただけるかた募集中。また、その逆も募集中です。

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