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神様は賽を振らない 第3章 ⑥

>>06

「また犯行を重ねる為に、そう遠くには行かないはずだ」

 槙田は汗ばんだ額を手で拭いながら言った。

「広域手配の指示は出しました」

 その槙田とは対照的に、秋月は落ち着いた様子でそう言った。
 片足を負傷していたせいで行動を制限していたせいか、身体がなまっているような気がする。
 槙田は久しぶりに本気で走ったせいか、身体が重く疲労感が酷い。
 容疑者である内田 秋生の弁護士、饗庭 佳乃(アイバ カノ)は現在行方不明。見つかり次第連絡が入るだろう。

「これまでの行動は行先のヒントにならない?高級で人の多いホテルで殺したのはなんでだろう?」

 そう言ってアレクセイが腕を組みながら考え込んだ。
 槙田とアレクセイは、は内田の様子を見ることができる映像管理室へと戻ってきていた。

「ターゲットが高級ホテルと高級娼婦をお望みだったからじゃないか? 自分の父親がどこのホテルを使っていたか、そんなことを内田は覚えていたのかも。最後の犯行で場所が変わった事を考えると、場所は重要ではないのかもしれない」

 宮浦警部補が保管していた資料からは、狙われている相手は解らない。彼の資料の中での生き残りは内田 秋生だけだ。
 今までの行動や場所も関係なく、資料も関係ない。自分達が持っている情報の中に、ターゲットが見つからず槙田は焦りを感じていた。

「彼ははソシオパスの素質があるようなので、犯行を反復せずにはいられないのかもしれないですね。だから捕まった後は代理人を使って犯行を繰り返してる」

 秋月が言った事と同じことを槙田も考えていた。彼女は捕まるまで犯行を止めないだろうし、彼女が捕まっても、内田によって新たな代理人が作り出される。終われない。

「細かく教え込んだ犯行の一部始終を報告させて、あたかも自分がやったような感覚を味わってるってこと?」

 珍しくアレクセイの眉間に皺が寄っている。嫌悪感の表れかもしれない。

「弁護士と依頼人の会話は秘匿特権で外に漏れません。指示を出すのは他の面会相手や手紙の相手よりもずっと楽にできますね」

 秋月が言った。確かに、面会や手紙じゃ無理があるかもしれないと槙田も思った。必ず誰かに監視された状態で殺しの指示をする事は難しい。だが、弁護士は別だ。彼女は完全に洗脳されて理性を失っている状態と言えるかもしれない。槙田は落ち着かない様子で、煙草へと手が伸びかけたがそれを我慢し、ディスプレイに映っている内田の姿を見ながら、彼がどんな指示を出したのかを考えていた。内田はまだ面会室に居る。

「こっちを意識していますね」

 槙田と一緒になって映像を見ていた秋月が言った。
 デスクの上にはプリントアウトされた書類をまとめたファイルや、写真が乗っていた。たまたま目に付いた弁護士の資料を手に取っ手、槙田は再度見直し始めた。
 キャリアは浅い。何故こんな有能とは言い難い弁護士を内田警視が息子に付けたのか気になった。
 どうせ表ざたになる事もない事件。ただ息子が檻の中で快適に過ごすための手伝いをさせるつもりか何かであてがったのだろうか? 
 彼は父親に見捨てられたと考えていいのかもしれないと槙田は思った。
 饗庭弁護士は両親が離婚。両親から虐待を受けていたとして、児童相談所の干渉もあり。高校を1度中退し、その後に通信制高校にて卒業認定。大学も働き出してから、通信制で大卒資格をとっている。その後、弁護士資格を……。父親はすでに死んでいる。母親は蒸発。
 居場所は今も分からないままなんだろうか。今更母親を頼るなんて事はあり得るか? それより内田に言われた指示を全うすることの方が、彼女にとっては重要な事になっているに違いない。
 次のターゲットは誰なんだ。また警察関係者なんだろうか。
 資料を読み返したところで答えは出なかった。このままじゃ駄目だと思った槙田は、少し考えてから秋月の方を向いて言った。

「流れを変えましょう。彼は大胆で、自信過剰です。傷付いて弱っている女性が相手だとなお更そうなる。多分、自分よりも下に見ているだろうと思われるアレクを尋問行かせたいのですが、いいですか?」

 失敗する可能性もある。しかもこれで失敗すれば、2度と内田が話をしなくなり後がないかもしれない。そうなれば打つ手を失う。もしこのまままた被害者が出るような事態になれば、俺だけではなく秋月にも迷惑がかかる事になるのが解っていた槙田は、敢えて彼女に答えを促した。

「下に見られているのに大丈夫ですか?」

 秋月がアレクを見て言った。
 彼女も槙田のその意図を理解している。
「逆に、彼の方が下だという事を示して煽ってもらいます」

 槙田もアレクセイへと視線を向けた。
 今まで話していて、自分では崩しきれないと判断した。秋月でも、優秀さを見抜かれきっと駄目だと思った。アレクセイなら彼を揺さぶることができるかもしれない。槙田はその可能性に欠けようとしている。

「うん。やってみましょう」

 秋月はそう頷いて、広げていた資料をかき集めはじめた。

「隙を見せると付け込まれるから、感情は出さないように」

 槙田はアレクセイにそう言いながら、すんなりとオッケーが出たことに少し緊張していた。なんとか犯行を防ぎたい。

「机叩いたり、椅子を蹴ったりするのはなし?」

「なしで」

 槙田がアレクセイにそう言い返していると、隣の秋月が彼にファイルを差し出しながら言った。

「これをうまく使ってください」

 彼女はこの状況でも落ち着いている。そんな彼女に槙田は貫禄みたいなものを感じた。自分ももっと冷静でいなければ、いつかミスをするだろう。見習わなければいけないと強く思った。
 アレクセイはファイルを受け取り、この部屋を出て行った。内田のいる面会室へと向かう。

「なかなか引っかかりませんね、さっきの弁護士」

 同室に居た刑務官が時計を見ながら言った。時間が経つほど、見つけるのは難しくなる。しかも相手は車だ。移動距離が大きい。

「あれ? 刑務官の人変わってますよね。午前中の人と違う気がします」

 秋月が映像を見ながら言う。
 刑務官の姿は端っこの方に小さく映っているだけだ。よくこんな小さな画像でわかるなと槙田は思った。内田や弁護士の事は良く見ていたが、刑務官の事まで気にして見ていなかった。
 午前中に会った刑務官の印象だけはうっすら残っているが、顔は帽子を深くかぶり俯き気味だったせいもあって口元ぐらいしか見えていなかった事位しか覚えていない。

「はい。今日は体調が優れないとかで午前中で早退したので、違う刑務官が担当してます」

「あっ……」

 刑務官が答えていると、秋月が急に声をあげた。何かを思い出したようだ。秋月の視線が左の方へと流れていく。

「あの人何だか不思議な雰囲気で……、そっちに気を取られてたんですけど、何処かで会ったことがあるような気がして、でも、あの人と会ってたら忘れたりしなそうだなとか思ってたんですけど」

 早口で喋りまくっている秋月が何を言いたいのか槙田には解らず、彼女が結論を話すのを静かに待っていた。

「あー、そうなんですよ。本人は見た目のせいで嫌なことも多かったみたいで気にしてるみたいなんですけどね。化粧なんかしなくったって、女性みたいにキレイですけどねぇ」

 刑務官は呑気に世間話でもするように相打ちを打っているが、槙田は秋月の様子がいつもと違う事には気付いている。
 2人の会話に耳を傾けている間に、アレクが面会室へと到着した様子が映し出された。

「ハル君、あの人宮浦警部補のお兄さん!」

「え?」
「そうですよ。宮浦 歩(ミヤウラ アユム)刑務官です。弟さんは警察官らしいですね」

 槙田は驚いて声をあげたが、同時に刑務官の世間話が続く。
 確かに宮浦警部補の兄は府中刑務所で刑務官をやっているとは聞いていた。秋月さんは貸金庫の件で電話で連絡を取っていた。彼女は彼の声を薄らと覚えていた。
 それがあの時の刑務官だという事実に、槙田は偶然と言うよりも妙な繋がりに変な胸騒ぎを感じた。

『下っ端がなんの用?』

 内田は開口一番、アレクセイに向かってそう言った。慌てて視線を映像へと戻し、やっぱりそういう態度かと槙田は思う。
 アレクセイはそれに動じることなく、正面の椅子へと座った。彼の方をろくに見ることもないまま、秋月に手渡されたファイルの中から、関係者の写真を抜き出して順に机の上へと置き始めた。写真は彼の方へ向けられ、几帳面に並べられている。

『今更こんな写真見せてどうしたいんだよ?』

 アレクセイが彼の反応を無視するような態度をとっている事に少し苛立っている様子が窺える。内田は腕を組みながらアレクセイを睨みつけていた。

『キミが関わったことのある人たち。被害者に肉親。キミの敵意の対象。キミは自分が大好きで、自信のない大人しい人間が好き。コントロールするのが簡単だから好きなんだろうけど』

 アレクセイが今度は打って変わって彼の眼を真直ぐに見て話し始める。

『だったら何? こんなことしてないで、早く彼女を見つけた方がいいんじゃないの?』

 逆に内田はそんなアレクセイから視線を逸らした。アレクセイが言っている事が間違っていないという現れとも取れる反応だ。
 そんな時、また場違いな猫の鳴き声が聞こえ始める。秋月の携帯に着信があったからだ。

「はい、秋月です」

 彼女はデスクの上に出していた自分の携帯電話へと直ぐに出た。そして、驚いた様に槙田の方を見る。

「弁護士の饗庭 佳乃の身柄を拘束したそうです」

 その報告を聞いて、槙田は少しほっとした。これで次の犯行は阻止できたかもしれないと思ったからだ。
 直ぐにディスプレイの方へと意識を戻す。

「ただ、犯行を否定しているようです。見つかったのは彼女の自宅で、ただ帰宅しただけだと証言しているそうです」

 彼女に殺しの指示を出したというのは、俺の勘違いだったんだろうか? 一連の犯行は宮浦警部補で最後、あるいは、内田とは全く関係がなく、すべては彼の嘘で演技だった? 彼の遊びに乗せられていただけだったという事なのか?
 秋月の報告を聞きながら、槙田の眉間に皺が寄っていく。どうも、自分が思っていた結論と結果が結びつかない。
 心拍数が上がっていくのを感じる。
 俺は判断を誤ったんだろうか。
 向こう側ではアレクセイと内田のやり取りが続いている。

『褒めて、励まして、友達を装って心を開かせる。信頼を勝ち取ったら相手を取り込む。自分を信頼している相手を心理的に虐待して、無力にする。自分の弱さは隠すけどね』

 アレクセイは内田の事を見透かすように言い放った。
 槙田は高鳴る心音を無視して、映し出されている内田の様子ををじっと観察し続けた。彼が事件と無関係であるとはどうしても思えなかったからだ。
 絶対に何かあるはずだ。
 それは彼の傲りではなく、刑事としての勘だった。
 弁護士に誰かをコントロールさせていた? そんな素質が彼女にあるとも思えない。だが、他に彼と接点があり、彼から指南を受けられる相手は誰だ。
 内田の表情や行動に大きな変化は見られない。ただ見ていると一瞬、気になった事があった。
 槙田はそれを見逃さず、胸ポケットから直ぐさま自分の携帯を取り出し電話を掛ける。
 向こうでは、控えめだがアレクセイが声を出して笑っているのが聞こえている。

『キミ、起たないでしょ? いくら愛しているだとか言っても、言われても、起つのはセックスの時じゃなくて、人が死んでいくのを見ながら喰べる時だけ。それがキミにとっての性交渉。いずれマスコミにこのことも公表されるだろうけど、キミはどんな風に世間の記憶に残るだろうね』

 そう言うだけ言って、広げていた写真をファイルに戻し始める。アレクセイはまた彼の事を無視するように立ち上がり、面会室を出て行った。
 表情は今も変わらない。彼の感情は読めない。ただ、意識を超えたところで反応はしている。
 槙田が電話をかけた相手は、いくら呼び出しをんが鳴っても出なかった。彼は一度電話を切って、再度かけ直した。それでも、中々出ない。
 焦りと緊張感が増していく。嫌な予感がしていた。

「……はい」

 しばらくすると、やっと相手が電話に出た。

「大丈夫か?」

「……まぁ、うん。……もしかしてわかってたの? こいつに僕が襲われるの」

 少し息が切れていた。電話に出れなかった間に、犯人に襲われていたようだった。槙田が思った通り、ターゲットは野々宮 一だった。

「さっき気付いたんだよ。多分、次の標的はお前じゃないかと思って警告したくて電話をかけたんだが遅かったな。怪我は?」

「僕は無傷。グール以外の人間にいきなり襲われると思わなかったから驚いた。でも、なんか普通とは違う感じがする。年齢も、性別も……見た目からじゃよくわからない。クローンか何か?」

 彼がクローンである確率は低いはずだ。国が秘密裏に研究していたクローン技術は、現在はかなり縮小し、限られて使用されているだけになる。個人や企業での国内でのクローン生産は禁止されている。入国も厳しい今のこの国で、他国から入国したとも考えにくい。槙田は一を襲った彼がクローンであるとは思えなかった。

「生きているのか?」

「生きてるよ」

「そうか。とにかく拘束しておいてくれ。応援をそっちへ向かわせる」

「了解」

 電話を終了し、応援要請の連絡をしている途中でアレクセイが映像管理室へと戻ってきた。

「うまくやれた?」

 アレクセイが顎をかきながら言った。あまり自分では自信がなかったようだ。

「はい。さすがですね」

 電話で話していた槙田のかわりに、秋月が答えた。

「弁護士見つかったの?」

 槙田の対応を見て、察したようにアレクセイが言った。

「見つかったんですけど、弁護士さんは犯人じゃなかったようですよ。でも、ちゃんと新犯人は捕まえちゃったみたいです」

 ね? と、小首を傾げながら同意を求めるように槙田の方を秋月が見た。電話中の槙田はアレクセイに向かって頷いて見せる。

「え? どういうこと?」

 混乱したようにアレクセイが言う。まぁ、そりゃそうだろうと槙田は思った。
 電話を終えて槙田が口を開く。

「流す程度にしか見てなかった写真の中に、1枚だけ一瞬目を奪われてる写真があったんだよ。だから一に連絡を入れたら、話せたのは犯人に襲われて拘束した後だったけどさ」

 槙田は大きく伸びをする。身体を支配していた緊張感から解放された。

 犯人の名は 宮浦 歩(ミヤウラ アユム)。34歳。俺達が午前中に1度会った、あの刑務官であり、宮浦警部補の兄だった。






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Author:美雨
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「神様は賽を振らない」の連載開始。
※物語の特性上、一部不快(グロテスク/残酷)に思われる表現があります。
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