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神様は賽を振らない 第3章 ③

>>03

「素敵なホテルですけど、今までと比べると随分リーズナブルですね」

「高いホテルはやめたのかな」

 前日に出向いたホテルの部屋よりかなり狭いホテルの一室でで、槙田は秋月とアレクセイの話に耳を傾けている。
 いたって普通のシティーホテル。高級ホテルのスイートと比べれば、部屋数からしてまるで違ってくる。
 結局昨日は徹夜をしたうえに空振りさせられ、挙句の果てに今朝、違うホテルで遺体が発見されるという結果になった。今回の害者は高官ではなく、一捜査員の警部補だ。

「彼の同僚の話では、昨晩は誰かと会う約束をしていたようだった。それ以外には変わった様子は見受けられなかった。と、いうことです。18時頃には署を出て行き、ホテルのロビーに到着したのは19時20分頃。チェックインはしていないそうです」

 秋月が集めた情報を報告する。

「じゃあ、犯人がチェックインしたってこと?」

 アレクセイが不思議そうに言った。今まで犯人がチェックインをしたことなど1度もない。まさか本人が? と槙田も思っていた。

「いいえ。お金を渡して人を雇ったようです。3日連泊でチェックインして泊まり、最終日の昨日だけは部屋を空ける様に言われていたようです。指示通り鍵をロビーにある植木にこっそりと隠して、その後部屋には戻ってないそうです。連絡はメールのみ。お金は先払いで銀行振り込み。本人とは直接会っていないそうです。調べてみましたが、裏はとれてます」

 今回は多少手が込んでいる。殺害する相手以外にも人を巻き込み、計画的に相手を殺している。

「その人よく見つかったね。しかも早い」

「前があったので、防犯カメラに映っていた画像で照合してみたら直ぐ見つかりました」

 アレクセイの言葉に秋月が嬉しそうに言った。
 現場は何年も離れていた筈なのに、相変らず凄いな……。
 何人分もの仕事を手早くこなしている秋月を見ながら槙田は思った。秋月の仕事ぶりは、ブランクなどまったく感じさせない。
 2人の話を聞きながら部屋を見渡すと、パッと目に入ったツインベッドのうち、1台だけ使用感があり乱れていた。クローゼットに荷物は何もなかった。その他にも残された荷物は見当たらない。

「女はカメラには映っていましたか?」

 槙田はバスルームを覗き込みながら言った。使用済みのタオルや歯ブラシが、そのままの状態になっていた。

「はい。俯いてはいましたけど、体格や骨格で認証したのでまず間違いないと思います。ロビーのカメラと、この階の廊下に設置されているカメラにもあの女性が映ってました」

 槙田は部屋を一周し、窓際からソファーへと床を気にしながら歩いた。絨毯に逆立った痕跡を追っていく。遺体は辿り着いたソファーの上にまだある。

「窓際で刺して、引きずるようにここまで運んだ跡が薄ら残っている」

 槙田はそう言って遺体を観察し始めた。アレクセイもしゃがみ込み、まじまじと遺体を見ていた。

「……前の現場の写真見たい」

「はい、どうぞ」

 アレクセイの言葉に、秋月がすかさず手に持っていたタブレットを操作して手渡した。
 何だろう、毎回頭? というか、首というか……、妙に曲がってないか?
 槙田はそんな気がして、何か引っかかるものを感じた。

「ポーズをとらせているのかな?」

 首をかしげながら、アレクセイが槙田にもタブレットに映し出された写真を見せた。1枚はクッションに頭が乗っている。もう1枚は枕。そして前回はベッドに寄り掛かるように頭だけが不自然に曲がっている。今回はソファーの肘置きの部分に頭が乗り、首が曲げられている。
 槙田はソファー横、遺体の後頭部へと回り、遺体の視線の先を見てみた。

「……もしかすると、腹を切って喰ってるところを見させてたんじゃないか?」

 遺体の視線の先は、切り裂かれ中身をえぐり取られた腹だった。
 アレクセイも槙田と同じように遺体の視線を追い、頷いて見せた。
 見られながら食事をするのが趣味なのか……。胸くそ悪い。
 槙田は眉間に皺を寄せながら遺体から視線を逸らした。

「死ぬのにどれぐらいかかった?」

 アレクセイが待機させている鑑識に言った。

「そうですね……ちゃんと調べていないのでズレはあると思いますけど、ざっと見た感じで6、7分ぐらいでしょうか」

 遺体に近づいてきた鑑識の女性が簡単に調べてそう答えた。
 最初の事件は即死だった。次は3分程度掛かっている。次は4、5分。段々時間が延びてる。槙田の憶測が正しければ、死んだ相手に見られるだけじゃ飽き足りず、生きている相手に見せるようにして喰うようになっている様に見える。
 エスカレートしている。槙田の直感はそう言っている。

「死ぬ瞬間を見るのが好きなのかも。今までも患者を安楽死させてプロセスを楽しんだりしていたかもしれない」

 アレクセイがそう言いながら秋月の方を向いた。

「1ゲートの医療関係者、病院の記録を調べてみますね」

 アレクセイが何を言いたいのか察して、秋月はそう言いながら部屋を出て行った。
 不審死や突然死が多い医療機関があれば、もしかしたら犯人をあぶり出せるかもしれない。
 部屋の中をくまなく見てはみたが、他に気になるような痕跡は見つからなかった。だいぶ犯行に慣れてきているような印象を受ける。アレクセイもこれと言って他に何も言わなかった。
 殺された警官の関わった事件や、その他高官たちと関わりがないのか。槙田の意識は既にそっちへとシフトしていた。
 槙田とアレクセイは鑑識に現場を引き渡し、部屋を後にした。ドアを開け廊下へと出ると、その場にペタンと座り込んで秋月さんがパソコンのキーを叩きまくっていた。

「あ、終わりました? あと1分ください」

 こっちをチラリと見て秋月さんが言う。周りを気にしながら、槙田達はそのまま手袋を外しながら1分程度彼女を待った。丁度客がチェックアウトを済ませた時間帯だった為、連泊意外に客は出入りがない。部屋の清掃や準備をする従業員がちらほらと見えるだけで、あまり人気がなくて助かった。傍から見ると、ちょっと異様な光景に見られそうだ。
 そのうち秋月がパタンッとノーのパソコンを閉じると、それを抱きしめるように持って立ち上がった。

「行きましょう。歩きながら話します」

 そう言ってエレベーターの方へと歩き出した。槙田達は彼女の後を追った。
 すれ違った従業員がジロジロと3人の方を見る。ここで遺体が発見された事は、捜査の妨げになる為という理由を付けられ、従業員達に口止めされた。ホテルの従業員である第一発見者2名と話はしたが、特に気になる事もない。念のため容疑者リストには加えられたが、犯人ではないだろうと槙田は踏んでいる。1人は精神的なショックから泣き出して、パニック状態。もう1人も動揺していたが、話はできた。2人ともグールではない。
 エレベーターを待って足を止めている間、周りに人がいないことを確認して秋月が口を開いた。

「1ゲートでの医療関係者、病院は特に不審なものは見当たりませんでした。でも、被害者の宮浦 譲(ミヤウラ ユズル)警部補を調べていたら、ちょっと気になることを発見しました」

 到着したエレベーターに人は乗っていなかった。乗り込んで行先ボタンを押すと、扉を閉める。槙田とアレクセイは彼女の話を黙って聞いていた。

「宮浦警部補は、1度男に襲われる被害に遭っています。記録では深夜の見回り中に背後からナイフで刺され、駆け着けた救命士に彼が言った言葉が「犯人は僕が死ぬのを見ていた」」

 それはどことなく、今回の事件と似ている。秋月の話を聞いて、槙田だけではなくアレクセイもそう思ったようだった。

「いつの事件ですか?」

 槙田は秋月に質問をした。

「6年前です」

 そこまで話が済んだところで、乗り込んでいたエレベーターは地下1階の駐車場へと到着した。車はほとんど止まっていない。3人は直ぐ近くへと停めていた車に乗り込んだ。運転は槙田。隣にはアレクセイが乗った。後部座席に秋月が乗っている。

「犯人は捕まったの?」

 シートベルトをしながらアレクセイが言う。槙田は車のエンジンをかけた。

「捕まっていません。事件のショックからか、その後の聴取で彼は何も覚えてないと言ったそうです。5ヶ月後には仕事に復帰してます。ただ、彼と組んで仕事をしていた久米(クメ)巡査部長の話だと、個人的に何かを調べているようだったそうです。聞いても本人は何も話さなかったようですが、もしかしたら自分を襲った犯人をずっと捜してたんじゃないかって言ってました」

 もしそれが本当ならば、何故1人で隠しながら犯人捜しなんかしていたんだろう?
 そうしなければならない何か理由があるのだろうが、槙田にはそれがわからない。
 槙田は疑問に思いながら、取敢え彼が務めていた立川警察署へと向かおうと思い車を発進させた。するとアクセルを踏んだあたりから、何やらにゃーにゃーと猫の鳴き声が聞こえ始めた。隣のアレクセイもキョロキョロと鳴き声の主を探しているようだったが、そんな中ミラー越しに見た秋月はガサゴソと大きな鞄の中を弄っている。
 まさか猫を? まさかだよな。だよな……。
 槙田はまさかとは思いながらも、どこかもしかしたらと思っていた。彼女だったらあり得るんじゃないかと思わずにはいられなかった。
 しかし、彼の期待を裏切って彼女が鞄から掴んで取り出したのは、猫ではなく携帯電話だった。

「はい、秋月です」

 鳴き声はただの携帯の着信音だった。確か昔は、エレクトリカルパレードだったなと槙田は思い出していた。あの時も、見事に現場の緊張感をぶっ壊していた。
 鳴き声の正体が着信音だと解ると、アレクセイは興味を失ったように窓から外の風景を見ながら欠伸をしていた。それを見て、そろそろ少し休ませた方がいいなと槙田は思った。

「15分程度で到着すると思うが、それまで休んでいいぞ」

「わかった」

 槙田の言葉に、アレクセイは椅子を少し倒して目を閉じる。後部座席を気にすると、思ったよりも早く秋月が通話を終えていた。何か新しいことがわかったのかもしれないと槙田は期待した。

「宮浦警部補の使用していたデスクから、貸金庫の鍵らしきものが見つかったとの連絡がありました。鍵付の引き出しにしまってあったらしいです」

 貸金庫? そんな所に何を預けてる? しかも、署の引き出しに閉まっているという事は、その存在を家族は知らないのかもしれない。
 槙田はまた1つ手がかりと謎が増えたなと思っていた。

「今、立川署に向かっています。鍵を受け取ってこちらで彼が預けていたものを確認しましょう。宮浦警部補のご家族は? 許可がいるかもしれません」

 膝の上に乗せたパソコンのディスプレイを見ながら秋月が答える。

「アウトブレイクの際に両親が死亡。兄と2人で暮らしているようです。兄は第一刑務所の看守さんですね。立川署まで来てもらいますか?」

「取敢えず、電話でお兄さんに許可だけ貰って銀行へ向かいましょう」

 会えば亡くなった宮浦警部補の事を説明しなければならない。今は話せる内容がまるでない上に、適当な事も言えない。申し訳ない気持はあるが、できるだけその辺の事は後回しにしたいと槙田は考えていた。

「了解です。連絡取っておきますね」

 そう言って、秋月が携帯を手に番号を入力し始める。無事に宮浦警部補の兄と連絡も取れ、許可も貰えた。
 ほどなくして立川署へと到着し、話を聞いた。しかし新たな情報はなく、たいした話は聞けなかった。宮浦警部補の机周りも念の為見ておきたいとは思ったが、槙田はそれを敢えて避けた。1度立川署の警官が調べた事を信用していない様に取られ、この後の捜査に支障が出ても厄介な事になる。ただでさえ警官殺しでピリピリとした署内で、余計な事はしない方がいいと思ったからだ。
 3人は30分もしないうちに立川署を後にして、貸金庫のある銀行へと移動する事になった。
 貸金庫の中身は、宮浦警部補が個人的に捜査していた資料……とも言えるし、違う代物ともいえるかもしれない。槙田はそれらを見て、頭をかきながら溜息を付いた。
 まずは、内田 忠信(ウチダ タダノブ)警視の資料。そして河野 篤志(コウノ アツシ)警視の資料に、大森 隆平(オオモリ リュウヘイ)警視の資料。経歴や家族構成に交友関係に写真など、細かく調べ上げていた。この3人は、今回の事件で殺された警察官達だ。
 とてもじゃないが偶然とは言えないだろう。これでは宮浦警部補が3人を殺す為に調べていたとさえ考えられる。
 宮浦警部補はあの画像の女とグルだったということか? 仲間割れで殺されたという事もありうる話だと槙田は考えていた。
 ただ、中身はそれだけではなかった。その中で1人、警官以外の人物の資料が含まれている。内田 秋生(ウチダ アキオ)。18歳。この青年の顔写真を見て、槙田は直ぐに5年前の事件を思い出した。犯人は当時13歳の少年。しかも現役警察官の息子だった。グールが起こした事件の犯人は、警官の息子で未成年。事件は表に出ることなく、秘密裏に処理された。現在、7人の女性を喰らい彼は服役中だ。実際はもっと多くの人を殺していたんのではないかと、グール対でこの事件の事を知った警官は誰もが内心思っていた。
 槙田は内田 忠信警視の資料を手に取った。息子が7人も殺したわけだが、表面上は無かった事扱いで、警視庁から署長へ移動が命じられただけで済まされている。
 殺された3人はともかく、何故内田 秋生の事をここまで調べていたんだ。あった資料のうち生き残っている人物は1人いるが、彼も殺す気でいるんだろうか?
 考え込んだ槙田は眉間に皺を寄せたまま睨めつける様に内田 秋生の写真を見ていた。殺しがまだ続くとすれば、3日後に内田 秋生は殺される事になる。ただ彼は刑務所の中に居る。そう簡単には殺せないはずだ。
 全ての資料を持ち帰り、2人は唯一の手がかりともいえる内田 秋生の居る刑務所へと向かう事にした。





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Author:美雨
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「神様は賽を振らない」の連載開始。
※物語の特性上、一部不快(グロテスク/残酷)に思われる表現があります。
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※詩を歌詞として曲などで使用していただけるかた募集中。また、その逆も募集中です。

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