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神様は賽を振らない 第3章 ②

>>02

「顔の怪我、傷が残らなくてよかったです」

 秋月が槙田の顔をまじまじと見ながら言った。先月、顔面を殴られたせいでその時装着していたゴーグルが割れ、顔には複数の切り傷ができていた。顔面だった為に隠しようがなく、よくジロジロと人に見られ目立っていた。
 足の捻挫も大事には至らず、思っていたよりも早く治った。

「腕の噛まれたところだけはまだ痛みますけどね」

 槙田は苦笑いをしながら答えた。スーツを脱げば、大なり小なり身体中に傷痕はあるが、腕の傷だけはかなり酷い傷跡が残った。

「アレクセイ君の手の傷は目立たなかったですけどね。やっぱり、治癒能力の差なのかなぁ」

 秋月の言葉を聞いて、よく見ているなと槙田は思った。と言うより、あの時の事件の事を彼女が知っているだろう事に驚いてもいる。
 駐車場に車を停めてホテルのフロントへと向かいながら、この会話の内容が何を意味するのか、槙田は考えていた。テープの内容は消去し、上書きした。尚がとった行動を知る者には口止めをし、口裏を合わせた。少女の首に残った首を絞めた跡は、数時間も経つと消えた。虚言癖があると報告してある少女が妙な事を口走ったところで、あまり信用される事もないはずだ。気付かれないとは思うが、不安はついて回る。

「千野のあの怪我が俺よりも先に治るっていうのが、信じられないですね」

 槙田と同じく左腕を粉砕骨折していたはずの千野は、既に術後復帰している。一方槙田の傷は激しく動かしたり、直接刺激を与えると未だに痛む。医者には全治3ヵ月だと言われていた。
 顔に目立った傷が残らなかっただけでも良かったとは思っている。顔を覚えられやすくなったり、どうしても相手が身構え仕事がやりにくくなりそうだからだ。
 ロビーには直ぐに到着し、たいした話はしなかった。特に込み入った質問をされたわけでもない。槙田はただの雑談だったと思いたかった。

 高級ホテルというのは、親切丁寧で厄介だ。
 槙田達の相手をしたホテルマンはしっかりした教育を受けていて、口にかなり頑丈なチャックをしていた。客の秘密をべらべら喋るようなホテルに、客は寄り付かない。
 まぁ、お客様が大切なのはわかるが……。
 槙田は目の前で大きなため息を付いてやりたい気持ちを押し殺し、ご協力頂ける様丁寧なな対応を心掛ける。
 事件の起きた、他2軒のホテルの防犯カメラに映っていた女性の写真を見せて話を聞いた。チェックインをされた形跡はなし。写真の女性は、警備員もスタッフも記憶にないとの返答。
 ホテルの混雑状況を聞くと、客は平日でも多く、現場であるスイートは数か月先まで予約で埋まっていると言っていた。
 スイートは奥まっているだろうから、人目に付きずらかったという事だろうか? それにしたって、入口から入りロビーを通過しているはずだ。記憶にないなんておかしくないか?
 槙田がフロントから見えるエントランスや、客室へ向かう為のエレベーターの位置などを確認しながらそんな事を考えていると、秋月が口を挟んだ。

「さすが、防犯意識が高いですね。とても良いものを使ってます。あの防犯カメラのレンズなら15~20メートル先まで映せますよね? 解像度も抜群です。そのカメラにも一切映らないで入るなんてこと、マジシャンでもなければ無理ですよ」

 秋月は防犯カメラを指差しながらそう言ってにっこりとほほ笑んだ。彼女はその辺の知識に長けている。秋月から視線を逸らし、ホテルマンは緩んでもいないドット柄のネクタイを閉めなおしながら、「カメラの映像は警察にお渡ししています」と言った。
 彼の言うとおり、確かにこっちに映像は渡されている。そして、女性が映っていなかったのは既に確認済みだ。
 最高級ホテルに深夜、人知れずに入り、チェックインもしない女性。そんなのは従業員かエスコート嬢ぐらいじゃないか。
 槙田はホテル側が客に気まずい思いをさせない為に、彼女たち専用の入り口が用意されているのかもしれないと考えた。
 槙田がホテル関係者専用の通用口のカメラを指摘すると、故障中だと言われる。これだけセキュリティーのしっかりしたホテルが、そのカメラだけ故障中のまま放置している事が、逆に不自然だ。多分、わざと壊したんだろうと槙田は思った。故障中だと聞いて、逆に自分の考えていたことが間違っていなかったと確信した。女性が映っていたとしたら、そっちのカメラに映っていた可能性が高い。写真の女性がエスコート嬢だとすれば、累犯で逮捕記録から絞り込めるかもしれないとも考えた。
 この対応からして、このホテルマンからこれ以上話が聞き出せるとも思えなかった。通用口のカメラを壊した証拠があるわけでもない。
 現場となった部屋は既に綺麗さっぱり元通りにされ、新たな客が泊まっているという。殺人事件があった事実は伏せられている為、何もなかった事を装い通常営業されているというわけだ。
 ホテル側も殺人事件があった事を伏せられて好都合だった。稼動率の高いスイートが使えなくなり、ホテルの評判にも傷がつくところを回避できた。警察は高官が殺された事実を隠したい。そしてそうなるようにこちら側も協力した。
 現場を見ることもできず、この辺で引き下がるしかなかった。得られた情報は少ない。2人は更なる情報を集めにその足で遺体の検死結果を聞きに向かった。


「傷の幅は30センチ半、深さは23センチ。サバイバルナイフを使ったみたいね」

 ベッドの上に横たわった遺体を見せながら、検視医が説明をする。秋月は遺体が得意ではないのらしく、数歩下がったところから遠目に見ていた。遺体を挟みながら、槙田は検視医の向かいに立ちながら話を聞いていた。

「失血死?」

「そうね。失血死だと思うわ」

 槙田の質問に検視医が答えた。綾瀬 円佳(アヤセ マドカ)という、彼と同世代ぐらいの女性だ。半年ほど前からここの常勤になり、2人は度々顔を合わせる。いつも手術着にマスクをしている為、見えている目元が強く印象に残っている。少したれ目で、目を伏せると瞼にホクロがある。

「とられたものはありますか? 身体の一部で、爪や髪の毛とか」

 後ろから秋月が質問をする。
 記念品か。
 槙田はそう思いながら無意識に腕を組んでいた。犯人は殺害後に事件現場や遺体から、戦利品・記念品を持ち去る場合がある。それを見て殺したその時を思い出し、2度楽しんだりする。

「特にないわね。掴み取られた臓器を除いては」

 もしかして、臓器は喰われたというより、戦利品や記念品として持ち去られたのか?
 持ち去られる品は様々ではある。槙田は自分の考えを想像して嫌な気持ちになった。

「掴み取られたってことは、ナイフで切って、その切り口に手を入れて掴み取ったって事ですか?」

 大きなカバンをぎゅっと抱きしめるように持ちながら、秋月が嫌悪感たっぷりな感じで言った。

「そう」

 視線だけを秋月へと向けて綾瀬は応えた。
 遺体の傷は切開された腹部以外にもある。1回目、2回目の害者のものより、今回の遺体の方が刺されたと見られる箇所は多い。
 後ろから一刺しして動けなくして、前方に回りもう一度刺している。その後に2ヶ所刺しているが、どれもが急所を外している。そして、刺された場所から考えて、傷付いていない幾つかの臓器が取り出されている。
 槙田は眉間に皺をよせ考え込んだ。

「何か気になる?」

 黙ったまま遺体を見ていた槙田に向かって、綾瀬が話しかける。

「1人目は心臓を一突きだったし、2人目は頸動脈を切断していました。3人目は多分、わざと急所を外しているんじゃないかと思って。切り口は手馴れている感じですか?」

 槙田は切開された腹部を指差しながら聞いた。犯人が刃物を使い慣れた職業に付いている可能性を探る為だ。

「回数を重ねて上達はしているけれど、手馴れているほど上手くはないわね」

 そこまで話を聞いたところで時間切れになった。槙田と秋月は綾瀬に礼を言い、その場を後にした。この後に行かなければならない場所がある。
 車まで戻り乗り込むと、槙田は無線でアレクセイと連絡を取った。車にも無線は搭載されているが、使用されることは少ない。もともとグール対は班ごとに独自の回線を使っている。今回は秋月に頼み、更に内部にも情報が漏れない様別の回線を使ってコンタクトをとれるようにしてもらっている。集まって話をしている時間はない。

「ジャスパーから、ビッグベアー。応答せよ」

「ビッグベアーより、ジャスパー。……聞こえてるよ」

 寝起きっぽいアレクセイの声が返ってくる。
 槙田は車を発進させ、運転をしながら会議を始める。秋月は後部座席でパソコンを広げながら、無線を聞いていた。

「犯人はエスコート嬢を装っているか、エスコート嬢。または、色仕掛けで男を喰い物にしている女。人に紛れる程度の秩序があるが、3人目の害者を見ると、殺害方法に変化が見られる。エスカレートする恐れあり」

 次も同じような手口で来るのかも微妙なところだと槙田は考えていた。いい加減、こちらが警戒していると犯人にも解っているはずだ。

「3人とも警視庁の高官が殺されたんだから、やっぱり次に狙うのも同じかな」

 アレクセイが言う。

「無差別ではないだろうな」

 槙田は、自分達が気付いていない何か繋がりのある者が殺されていると考えるのが妥当だとは思っている。
 もしくは、見せしめか何かだろうか?
 アウトブレイク後は、政府や警察への不満から攻撃を受ける事も珍しいものではなくなった。総理大臣に政治家、警察関係者が一般市民によって殺害されるような事件も少なくない。もしくは、今回の事件もシェームが関係している可能性もある。ただ、見せしめにしては秘密裏で、今回は声明文もない。

「女性で絞殺や刺殺はめずらしいし、わざわざ道具を使ってお腹を切ってるのは、何か理由がありそうな気がします」

 秋月が付け足すように言った。
 犯人が人間だったとしても、確かに女性の刺殺事件は珍しい部類に入る。基本的に毒殺など、間接的な殺し方をすることの方が多いからだ。グーラだとしたら道具を使う事自体、違和感がある。そのまま引き裂いて喰えばいい。

「1ゲートにある4軒の高級ホテルのうち3軒で事件が起きた。残りの1軒の警備室に詰めて欲しいと言われている。このままビッグベアーを拾って、そのホテルへ直行する」

 急いでいたのはこのせいだ。18時にはホテルに行く約束になっている。槙田は時間を確認しながら言った。

「あと15分程度でそっちに着くから、準備しておけ」

「了解」

 そこで一旦、無線会議は終了した。赤信号で停止した所で、槙田は後部座席の秋月の方を振り返った。昔からそうだったなと思う。彼女が助手席に座らないのは、あの大き目なバッグが邪魔になるからだ。中には色々なものが入ってる。

「秋月さん、ホテルの警備システムに接続できますか?」

「もうしてます。準備できてますよー☆」

 秋月はそう言って槙田の方を見ると、にこっと笑って見せた。

「それよりハル君。尚ちゃんのことなんですけど」

 急に話が尚の事へと変わり槙田は驚いた。顔に出ていたかもしれない。
 何となく親しげだが、秋月さんは尚と面識があったのか?
 槙田はそう思いながら、不意打ちの話に耳を傾ける。

「来週には復帰予定だそうです。記憶の操作がされた様なので、事前にまたそのことについて連絡が行くと思います。今後、幼女が関わる事件からは外すことを前提に、復帰が打診されたみたいですよ。あっ、青です」

 信号が青に変わり、槙田は直ぐに前を向いて車を再び走らせる。
 槙田が考えていたよりも早い復帰だった。人手不足のせいだろうなと思う。記憶の操作をしたということは、やはり過去の事が原因で今回の様な事が起きたという事になる。取敢えず、尚の首は繋がったようだ。

「そうですか」

 もしかしたら秋月が助っ人で入ったのは、尚に対する自分達の審査も入っているのかもしれないと考えながら、槙田はそう答える事だけにしておいた。






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美雨

Author:美雨
オリジナル小説・詩の下書きblog
「神様は賽を振らない」の連載開始。
※物語の特性上、一部不快(グロテスク/残酷)に思われる表現があります。
※作品の転載・お持ち帰りは禁止です。何かで使用されたい場合は、事前にお声かけください。歓迎★
※詩を歌詞として曲などで使用していただけるかた募集中。また、その逆も募集中です。

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