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神様は賽を振らない 第2章 ⑥




>>06

 少女は自分の名前を「イン」と言った。年齢は7歳ぐらい。見た目は年齢通り幼いが、年の割にはしっかりした印象を持つ。
 少女が寝ている間に傷の手当てを済ませ、体内にGPSを埋め込んだ。抑制剤は投与されたが、基本大人には使われる拘束具は使用しなかった。
 目覚めた少女は落ち着いていて、諦めたのか暴れる事もなかった。終始言われた通り、こちらの指示に従っていた。
 槙田達も簡単な傷の手当てを受けた。特にメンテナンスの入らない捜査官である槙田は、仕事優先にせずにきちんと病院へ行くよう念を押された。
 その後少女は調書室へと連れて行かれ、予定通り取り調べは尚に任される事になった。一は尚の後ろで壁に向かって座り、記録をとっている。基本、口出しはしない。槙田とアレクセイは隣の調べ室でその様子を窺っている。

「この子たち、知ってる?」

 尚は生前の桃花ちゃんの写真、更に行方不明になっていて遺体で見つかった2人の写真を机に並べて見せた。
 少女は退屈そうに足をぶらつかせ机に突っ伏しながら、それらの写真を見た。

「知らなーい」

 そして即答する。重ねられた両手の上に顎を乗せたまま、興味無さ気だ。
 だが、普通は即答しない。そう答えることを決めている場合だけだ。嘘を付いている場合が多い。

「……じゃあ、この子たちは知ってる?」

 尚はそう言って、今度は死後の検視写真を机の上に並べ始めた。腐乱した遺体や、列車に切断された写真。それを見ても、少女は顔色を変える事もない。ただ、眼の色だけは紅く変化する。欲望を隠してはいるが、写真を見て興奮している。

「知らないもん」

 一瞬足のぶらつきが止んだが、また直ぐにぶらぶらと揺れ始めた。
 尚はゆっくりとした口調で問いかけを続ける。

「この子は昨日見つかったの。線路にいたんだよ」

 尚は桃花ちゃんの写真を指差しながら言った。

「電車にひかれて死んだんでしょ? 事故にあったのね」

 少女は自分の中のストーリーでも話すように言った。興奮していたせいか、少し気が緩んだのかもしれない。
 事故に見せかける為に、線路の上に置いたのかと槙田は思った。
 ご丁寧に偽装工作をしていたわけだ。
 どの遺体からも、見つかったのは少女の指紋だけだった。状況証拠から、少女が1人で犯行に及んでいたと言っていい。けれど、子どものグールが1人で行動することは珍しいことだ。大概1人で人を殺して喰べるを繰り返していたら直ぐに見つかって捕まる。杜撰さはあるが、何の予備知識もなく今まで犯行を重ねたとは考えにくい。槙田は1人で行動できるようになるまで、誰かに指南されたと考えるのが妥当だと判断した。

「見つかった場所はみんなに教えたけど、電車にひかれちゃったことは内緒にしてあるの。だから、ひかれちゃうようにその子を置いた人しか知らないことだよ」

 尚が少女のことを見つめながら言った。
 少女が言った言動は、非公開の内容を含んでいる。自供と変わらない。

「……誰だか知らないけど、喰べた」

 尚の視線を受け流すように、少女は右下の方へと視線を落とす。口元が微かに笑っているようにも見える。
 少女は悪びれる事もなく簡単に容疑を認めた。そもそも悪い事をしたとは思っていないのだろう。

「喰べただけじゃないんじゃない? 誰だかわからなくなるまで殴ったもんね。だから写真を見てもわからなくなっちゃったのかな。顔にハンカチかけたのはどうして?」

 これまでと同じように穏やかな口調ではあるが、尚が余計なひと言を混じらせる。少女の態度にイラついているのかもしれない。
 
「だって、喰べてるときジロジロみられたくないでしょ? こっち見てくるんだもん、みんな」
 人格を否定し距離を置くのと同じ行為だ。人ではなく食料にし、喰べることに集中する為のハンカチだったと言える。

「この2人は喰べた後川辺に埋めたでしょ? どうしてこの子だけ違う場所に連れてったの?」

「いつもの場所は水がいっぱいだったからダメだった。だから人が来ないところ探したんだ。前に危ないから来ちゃだめだよって言われたから、みんな行かないでしょ? 怒られちゃうもん」

 危険な場所に人は近づかない……。槙田はそんな事まで考えて行動していた少女に驚いた。賢いなと思う。少女は他の直情型で猪突猛進なグール達とは少し違って見えた。
 槙田は隣に座っていたアレクセイの方を見た。その日も12ゲートに居たから、彼なら少女の言葉の意味を解ると思ったからだ。

「前日に局部的な大雨が降ってたから、川は増水してたと思う」

 槙田の視線に気づいたアレクセイが言った。
 増水していたせいで、いつも喰べ残した遺体を処分していた場所が使えなかった。少女が遺体を線路へと遺棄したのはそんな理由だった。

「ねぇ、どうして閉じ込めるの?」

 少女は尚を見上げるようにして言った。

「この子たちを殺したから」

 尚は視線を逸らす事なくそう言ったが、指で唇を撫でた。
 今までずっとパソコンに向かって2人の会話をタイピングしていた一が少女の方を気にするようにして見た。
 槙田は何となく向こう側の様子がおかしい様な気がしてアレクセイの方を向いた。すると彼も首をかしげて見せた。

「どうして殺したら閉じ込めるの?」

 この年齢だとグールの元親であるLによって産み落とされたグールなのか、人から産まれた突然変異なのか判断がつきにくい。検査の結果が出るまでは何とも言えないが、突然変異の場合、捨てられた可能性が高い。こういった殺人に対し罪悪感のない場合は、生まれながらにグールである場合がほとんどではある。

「……そういう、決まりだから」

 尚は小さな声で口ごもるようにして言った。

『尚、前まで13ゲートに居たのか聞け』

 何だか嫌な予感がして、槙田は無線をオンにして口を挟んだ。尚にはイヤフォンから彼の指示が聞こえてるはずだ。

「でも、喰べないとインが死んじゃう。インが死んじゃうえばいいの? どうして人間みたいにしてちゃだめなの」

「……人間だって人を死なせたら閉じ込められる」

 一が尚の様子を心配する様に後ろから見つめていたが、槙田やアレクセイの居るマジックミラーの方をチラリと見た。やはり様子がおかしいと槙田は感じた。

「違うよ。人間だってたくさん殺して喰べてるでしょ! インだって喰べてるだけでしょ! おなかすいたら喰べるでしょ!」

 少女は捲し立てる様にそう言った。
 背筋を真直ぐに伸ばした尚は、硬直したように動かなくなった。

『尚、聞こえたか? 事件の話をしろ。13ゲートから来たの……おいっ!!』

 話の途中で槙田は怒鳴るように呼びかけた。立ち上がった衝撃で座っていた椅子が倒れる。
 何でだ?! どうして尚の眼の色が変わる?
 そう考えながら槙田は焦っていた。

「ヤバい」

 そう言ってアレクセイも立ち上がり、部屋の外へ出ようと慌ててドアに手をかけた。ロックがかかっている為、直ぐには開けられない。

「シェームが言ってた通り、人間はず…る……い」

 シェーム。
 聞き覚えのあるその名前を気にするよりも早く、尚が少女の首に手をかけていた。

『止めろ!!』
「ショウ!!」

 槙田と一の怒鳴り声が響く。一が尚の手を少女の首から剥がそうとするがうまくいかず、尚の首の後ろへラビットパンチをした。手元が緩んだ尚を引き離し押さえつけようとするが、必死に少女へと襲い掛かろうとする。周りなど見えていないようだった。

「ダメ、殺さなきゃ!」

 一は尚の首に腕を回し、頸動脈を締めた。

「その子を」

 ドアを開けて部屋に飛び込んできたアレクセイに、気を失った尚を抱いた一が言った。少女はぐったりとして床に倒れ込んでいる。アレクセイが少女に駆け寄り、首元へと手を当てる。口元へ耳を近づけ、呼吸の確認をした。

「大丈夫、息してるよ」

 その言葉を聞いてホッとしたように、槙田の口から呑み込まれたままだった息が一気に吐き出された。
 彼女がこんな行動を取った事など、過去に1度もない。当たり前だ、あったらクビになる。
 何が起こった。原因が何かあったはずだ。
 槙田は考えられるとすれば、彼女の過去の記憶と関係するんじゃないかと思いを巡らせていた。

「病院連れてく?」

 少女を抱きかかえながら、調書室の方からアレクセイが言った。
 聴取は原則すべてカメラによって撮影されている。槙田は録画ボタンを停止して、中からテープを取り出すと、それをポケットへと忍ばせた。

「いや、取敢えずこっちの部屋のソファーに寝かせる」

 槙田の背後には背もたれのない長椅子のようなソファーがある。何とかなかったことにしなければならない。でなければ、槙田と尚のクビがとび、班は解散になるのは目に見えている。
 クソッ! 予兆はあったのに止められなかった。
 槙田は自分の失態を悔やみ、憤りさえ覚えた。
 少女の首には絞められた痕がくっきりと残されていた。





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美雨

Author:美雨
オリジナル小説・詩の下書きblog
「神様は賽を振らない」の連載開始。
※物語の特性上、一部不快(グロテスク/残酷)に思われる表現があります。
※作品の転載・お持ち帰りは禁止です。何かで使用されたい場合は、事前にお声かけください。歓迎★
※詩を歌詞として曲などで使用していただけるかた募集中。また、その逆も募集中です。

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