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神様は賽を振らない 第2章 ⑤

>>05

 千野は少女に直ぐに追いついた。槙田では追いつけないが、よっぽどじゃない限りスピードで彼には勝てない。
 腕を掴まれそうになりそれを避け、千野の後ろへと猿のように身軽に回り込む。彼の首へと手を掛けようとするが、それをアレクセイが引き剥がすように引っ張る。
 今度は回転するようにアレクセイの顔面を蹴り上げ、捩じられ上げられたアレクセイの手が少女から離れた。
 草が一層茂る方へと逃げようとする少女を、見失うわけにはいかない。一は躊躇う事なく少女に向かって発砲した。それが左足へとヒットして、少女は悲鳴を上げる。
 少女は転んだが、それでも逃げようと立ち上がる。千野が動きの鈍った少女の傷口を掴み、抑え込むように力を込めた。酷い悲鳴が鼓膜を揺さぶる。
 容赦などない。それが命取りになる事を知っているからだ。
 少女は掴んだ千野の腕へと噛み付いた。千野のうめき声が聞こえてくる。
 アレクセイが少女へと鎮静剤を打とうとするが、暴れて手が付けられない。一が少女の両手に無理やり手錠をかけ、ようやく鎮静剤を打てた時には、千野の左腕の骨は粉砕していた。
 槙田の傷よりずっと酷い。治すのに時間がかかりそうだ。
 男3人がかりで、少女は無事確保。
 だが、槙田がこの一部始終を見れたわけではない。暗視ゴーグルが壊されて、何が起こっているのか見えてはいなかった。無線から聞こえてきていた声や音だけが全てだ。後から水無瀬がまとめた報告書を読んで、事の一端を把握する事ができた。
 ただ、尚がその間何をしていたのか、把握している者はいない。本来なら彼女もその場に加勢しているはずなのだが、彼女は気を失い倒れている所を発見された。
 特に何処かを怪我しているわけでもなく、直ぐに意識も取り戻した。仕事にもそのまま復帰している
。   その時の事を尚自身に聞いては見たが、『わからない』という曖昧な答えしか返ってこなかった。
 槙田達は少女が鎮静剤が切れて意識を取り戻す前に、本部へと護送していた。
 いつもならしないが、運転は一がしていた。水無瀬は千野を病院へと送り届ける為に別行動をしていたし、アレクセイと槙田は怪我をしていた。尚はそもそも運転ができないからだ。口に出しては言わなかったが、仕方ないなといった感じで、諦めたように一がハンドルを握ることになった。
 助手席にはアレクセイが乗り込み、槙田の隣には尚が座っていた。

「ごめんなさい。守りきれなくて」

 怪我をした槙田に尚はそう言って落ち込んだ様子だった。
 まいったな。そんな事を言っているようじゃ困るっていうのに。
 疲れもあり、槙田は溜息を漏らしながらそう思っていた。

「お前が守るのは俺や水無瀬じゃない、一般市民だ。勘違いするな。これは俺のミスだ」

「……はい」

 尚が槙田から視線をそらして返事をした。
 このままじゃ駄目だ。多分また同じことを繰り返す。
 そう思いながら、槙田は多少苛立ちを感じながら言った。

「……お前、本当に解ってるか? このままだと戦闘員から外すことになるぞ」

 尚は驚いた様な顔を見せて、涙目になった。だが槙田はそのまま話を続ける。

「ちょっとやそっとじゃ死なねーよ。俺が足引っ張ってお前が死んだら、それこそ一巻の終わりだぞ。胸くそ悪い」

 堪えきれずに溢れ出した涙が、ポタポタと尚の膝の上にあった握りこぶしを濡らした。
 アレクセイが心配そうにミラーから後部座席の様子を窺っている。槙田がいつもならこんなにキツく言ったりしないからだろう。
 けれど、本当にこのままじゃ駄目だと思った。いつか大きなミスに繋がる。槙田は尚の今後を思って、敢えてキツく言っている。

「見捨てろって言ってるんじゃない。守ってくれって言ってるんじゃない。助けが必要な時に助けろと言ってるんだ。その判断を誤ったら、俺達だけじゃなく大勢が死ぬ」

 槙田は尚の頭をポンポンと撫でながら言った。

「お前は優秀だ。頼りにしてる」

 槙田は励ますつもりでそう言っているわけではない。彼女は本当に優秀な部下だ。一は他のグールとは違う。彼女もまた、他のグールとは違うのだ。
 2人とも特例で基準の年齢以下で採用され、職務に就いた。傭兵としての英才教育を受け、厳しい訓練をパスしている。成績はトップクラス。そう言うところは父親にそっくりだと槙田は思う。
 彼女には誰もが目をかけている。その期待が彼女にとって重いのか気にしていないのか、その辺の所は解らない。けれど、事実実力はある。結果も出してきた。これからも傷を共に分かち合い、共に成長していって欲しい。それが槙田の願いだ。

「後ろの子の聴取は誰がするの?」

 何も聞いていなかった様に、運転している一が言った。一番後ろの後部座席には、拘束された少女が寝かされている。
 無愛想。がたいのでかい外人。おっさん。お姉ちゃん。このメンツを頭の中に思い浮かべながら考えた結果、槙田が言った。

「……尚かな」

「オテンバだから、少し脅した方が喋るんじゃないの?」

 痛めた手首を眺めながらアレクが言う。

「お前、真顔でそういうこと言うなよ」

 普通に怖いぞと思いながら、槙田がから笑をする。
 それよりも、噛まれた場所がズキズキと痛み、捻った足首が腫れてきているのも気がかりだった。尚の事が気がかりで後回しにしたものの、水無瀬より自分が千野と一緒に病院行けばよかったと彼は今更ながら思い始めていた。
 入れ替わりで槙田も手当てを受けなければならない。尚が意識を失った件も報告して、検査を受けさせた方がいいかもしれないと考えていた。

「もともと子どもの失踪事件はよくあったの?」

 赤信号で車を停止させて一が言った。
 彼等を休ませている間、その辺のことは調べた。届が出されていて遺体で見つかった2名と、今回の害者との接点も探してみたが見つからなかった。

「いや、無い。元々12ゲートは子どもが少ないから、居なくなれば直ぐにわかる」

 子どもの失踪届が出ていたのは2件だけだった。あとは大人が16名。今はもっと増えているかもしれない。死傷者の数もじわじわと増え続けている。これだけ警官がうろついているというのに、捕まったグールの数は1人だと言う。
 シェームの指示で動いているのかもしれないが、かなり厄介だ。

「じゃあ、見つかった遺体意外ではここ最近なかったってこと?」

 アレクセイが後ろを振り向いて言った。尚の手元にハンカチを置く。
 ハンカチってがらか?
 槙田はアレクセイを見てそう思ったが、その辺は敢えて突っ込まないでおいた。けれど、アイロンをきっちり掛けられている清潔そうなハンカチが何だか嫌だった。

「そうなるな」

 槙田は窓から外の風景を眺めながら答えた。見回りをしている警官が目につく。

「施設から脱走したとかは?」

 一が言う。

「あの子、烙印なかった」

 槙田が答えるより早く、尚がハンカチで涙を拭きながら鼻声で言った。
 政府に逮捕、あるいは保護・捕獲されたグールは、首の後ろに烙印がある。見分けるための印みたいなものだ。当然だが、槙田と水無瀬以外は全員戦闘員用の烙印が付けられている。
 烙印がないと言う事は、捕まった事がないという事だ。この印をつける行為は、アウトブレイク後に実施されるようになった。
 アレクの言う施設とは、突然変異でグール化した子どもを政府が隔離して育てている施設のことだ。
 後ろで眠っている少女は、施設から脱走したわけでも、もともと12ゲートに潜伏していたわけでもないと仮定できる。

「13ゲートから侵入されたグールと関係がありそうだね」

 アレクがセイ言うとおり、関係があると槙田は睨んでいる。
 いったい何人のグールが『内側』へと侵入したのか、今のところ不明だ。

「可能性は高い」

 そう言いながら、槙田は少女からシェームの事を聴き出せたらラッキーだと考えていた。
 車がゆっくりと駐車場へと入って行く。元居た捜査本部へと戻ってきた。

「着いた」

 そう言ってエンジンも切らずに一が車を降りる。駐車スペースに停める気はさらさらないらしい。
 いつもより早歩きな一を呼び止めようかとも思ったが、槙田は直ぐに諦めた。
 運転が苦手なのか……。
 ここまできてようやくそうかもしれないことに彼は気が付いた。
 特に、駐車するのが下手なのか?
 そう思いながら、槙田はまたひとりから笑をした。そんなに運転が下手だという印象は受けなかったが、ここまで事故る事なく到着したことで良しとするべきだと思うことにした。
 尚も車から降りて一の後に続いた。

「あの子よろしく」

 槙田は後部座席の少女を指差しアレクセイに言った。

「了解」

 アレクセイが少女を車から降ろすのを確認してから、槙田が車を駐車した。
 少女が目を覚ますまであと30分程度の猶予がある。それまでに取敢えず傷の応急処置でもしてもらうとする。





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美雨

Author:美雨
オリジナル小説・詩の下書きblog
「神様は賽を振らない」の連載開始。
※物語の特性上、一部不快(グロテスク/残酷)に思われる表現があります。
※作品の転載・お持ち帰りは禁止です。何かで使用されたい場合は、事前にお声かけください。歓迎★
※詩を歌詞として曲などで使用していただけるかた募集中。また、その逆も募集中です。

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