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神様は賽を振らない 第2章 ④

>>04

 予定通り、槙田達は河川に到着した。この河川を非常警戒区域とし、見張りにつく。大勢で張り付いていては相手に感づかれてしまう。日中ここを捜索にあたっていた警官達はいったん退去してもらった。
 川を挟んで川縁を進む。挟み撃ちになるよう、4つに分かれて同じ方向へと進んで歩く。時間を置きながら、絞った範囲でそれを何度か繰り返していた。

「日が暮れるとほとんど人がいないですね」

 槙田の直ぐ前を歩いている尚が言った。無線で全員が連絡をとれる状態だ。
 日が傾き始めると普段はそこまで人通りはないと聞いている。今は周辺住民が警戒しているのと、外出を控えるよう勧告されているのもあって、特に出歩く人は少ないだろう。

「無暗に外を出歩かないように勧告されてるからな」

 槙田はそう答えながらかなり参っていた。道路に街灯はあるが、川岸にはない。日が暮れるにつれて、視界はどんどん悪くなっていく。ただでさえ草が生い茂っているせいで歩き辛い。
 いつ探している少女が現れるかもわからない状態で、気を張っているのもあって二重に疲れる。相手が子どもであっても、グーラが相手では槙田がまともにやり合ったらあっさりと負ける。
 負けるということは、死を意味する。

「子どもなんていたら、逆に目立ちそうじゃないですか?」

 槙田とは対照的に、ハイキングでもしてるように先を歩く尚がまた口を開いた。

『でもさ、川縁の方に降りてくると上からはほとんど何も見えないんだよ。草なんて腰位まであるんだ。木もたくさんあるから、隠れてしまう』

 アレクセイが言う。それを聞いて、槙田は確かにその通りだと思った。恰好の隠れ場所かもしれない。ここでこっそりと食事をしようが、周りに気付かれやしない。残骸を片づけるのも楽そうだ。

「痛っ」

 いくら気を付けようとしても限界がある。槙田はついに石か何かに躓き、こけそうになったのを耐えようとして逆に足を捻ってしまった。
 ……最悪だ。
 槙田は立ち止まったまま動かなくなった。目に見える怪我はしていないが、ぐるりと足首を回そうとして鈍い痛みが走る。

『大丈夫?』

「……足元がよく見えないんだよ」

 槙田はアレクセイの言葉に言い訳するように言った。
 そのまま立ち止まっているわけにもいかず、ゆっくりと歩き出す。

『尚の腕を掴んで歩けば?』

「あー、わたしたちみたいに見えてないんですね?」

 一の提案に、槙田を振返った尚が「閃いた!」とでも言うように言った。グールは夜目が効く。真っ暗な場所であっても、ある程度見えているらしい。

「どうぞ、がしっと掴んどいてください。誘導します」

 何か情けない感じがして嫌だな……。とは言っていられない。

「ああ、助かる」

 槙田はそう言って差し出された尚の腕を掴みながら、自分だけがこの状態なのはおかしくないかと? と思っていた。水無瀬だって条件は同じはずだ。

「水無瀬は大丈夫なのか?」

 不思議に思った槙田は水無瀬に話を振った。

『……私は暗視装置で割と大丈夫です』

 暗視装置だと……、何で水無瀬だけそんないいもの使ってるんだ。
 ずるいと槙田は思っていたが口には出さずにいた。

「……俺にもくれよ」

 けれど、そう呟ぶやかずにはいられなかった。

『装着してなかったんですか? イヤフォンと一緒に置いておいたので、持っているのでは』

 水無瀬にそう言われて、槙田は上着のポケットやパンツのポケットなんかを手当たり次第探し始める。意識せずに適当に入れたものは覚えていない……。
 結局コートの左ポケットに見覚えのないケースが入っているのを発見し、中身を確認すた。

「……あった」

 槙田は中身を取り出して暗視ゴーグルを装着した。もう、尚の腕を掴む必要もない。
 あぁ……、やっと見えた。全然違う。というのが槙田の暗視ゴーグルの感想だった。
 槙田が指示していなかった物で水無瀬が勝手に準備してくれているモノは、こんな感じで役に立つことが多い。

「なんか水無瀬さん、お母さんみたいですね!」

 尚が笑顔でそう言った。彼女に悪気がないことは解っているが、槙田は顔を引きつらせていた。
 彼は誰も尚の言葉に反応しないが、特に千野あたりが笑いを堪えているに違いないと思っていた。

『……こんなところを歩いてると、子どもの時にダルコと遊んだ時のこと思い出す』

 アレクセイが話を逸らすようにまた話し出す。

「お友達ですか?」

 基本的に話をしているのはこの2人で、他の4人はこういった任務中あまり喋ることがない。
 千野なんか喋りそうなもんだが、注意力が思いきり下がるとかであまり喋らない。千野の場合2つのことを同時にこなすのが下手なだけとも言える。

『うん。クマだけどね。ペットの』

「……熊!? ペット!?」

 尚は驚いたように興奮して話しているが、声は押し殺したように小声だ。
 ロシアでは熊をペットにするのは一般的なのか?
 内心槙田も尚同様驚いていた。

『あ、近いかも』

 久しぶりに千野の声がした。近くにグールの気配を感じ取ったようだ。千野は槙田・尚組みと同じ側の川岸を向かい合って歩いて来ている。アレクセイは一と水無瀬と向かい合い歩いている。
 槙田は千野の現在地を確認した。時計とは別にもうひとつ腕に付けている装置で、全員の居場所が確認ができるようになっている。千野が居るのは大体1キロ程先になる。槙田達からも近いという事だ。
 尚も今まで以上に辺りに気を配り始めた。
 こっちが気付いたという事は、向こうも気付いている可能性が高い。お互い、鼻がいい。見た目は人間と変わらず判断がつかないが、グールが近くに居る時は臭いでわかるという。
 聴力もいいから、ここからお喋りはなしになる。慎重に動く。
 前もって組んでおいた作戦を決行する。

「作戦A」

 槙田は小声で呟いた。途端に、ガサガサと葉が激しく揺れる音がしはじめる。彼はその音の方へと銃を構える。その揺れは、すごい勢いでこっちに向かってやってきた。相手の正体を確認するまでは発砲できない。
 恐怖で鳥肌が立った。

「危ない!!」

 尚が叫ぶ。
 目の前に、紅い眼をした少女が現れた。槙田の目にその姿が映った頃には、その子は大きく飛び上がり、彼の頭上から鋭い爪を振り上げている。
 槙田は咄嗟に発砲するよりも腕をクロスさせるように身構えていた。尚がその子の足を引っ張るようにして振り払う姿が、腕の隙間から見える。

「グフッ!」

 血を吐きながら、少女は地面へと叩きつけられるように落下した。

「無事ですか?!」

 尚が槙田の方を気にしながら声をかける。

「確保が先だ!」

 そう怒鳴りながら地面に目を向けると、もう少女の姿がない。

「ひどい。ちがでちゃった。いたい……」

 尚の後ろから女の子の声が聞こえる。鼻をすすっているような、泣き声混じりだった。

「もうやめ……」

 そう言いながら尚が振返ろうとしたところで、少女の姿が見える。
 ああ、こんなに小さくてもこの子はグーラなのだ。俺はそれを忘れちゃいけなかった。
 そう思った槙田の目に映ったのは、もうこの世にはいないはずの娘の姿だった。
 だが、油断していた尚をその子は切りつけようとしている。
 槙田は咄嗟に尚の着ていた服の背中を力いっぱい引っ張った。その反動で今度は尚が地面へと倒れ込んだ。それでも避けきれず、その子の爪は尚の左肩を大きく傷付けていた。

「じゃましないで」

 娘の姿をしたその子が言う。そして今度は槙田へと襲い掛かる。彼はどうしてもその姿にたじろいてしまう。銃口を向けるが引き金を引くのを一瞬躊躇ってしまった。その隙に避けきれず顔面を殴られ、暗視ゴーグルが割られた。
 その姿に彼が振り回されているのを、その子は解っている。だから自分の姿をよく見せようとゴーグルを壊した。だが、ただの人間の槙田にとっては、逆に暗くて良く見えなくなる。
  その辺の発想はまだ子どもだなと槙田は思ったが、だからと言って好都合とは言い難い状況といえる。槙田は覚えていた感覚だけで腹らしき場所を殴り、手探りのように細く小さな腕をとると背後を取ってうつ伏せにさせた。

「イヤ! はなして!!」

 だが、凄まじい力で暴れる。腕力の強さは槙田では敵わない。

「千野!! 尚!!」

 槙田は急いで近くに居るはずの2人を呼んだ。益々暴れ、抑え込んでいた手が緩む。腕に噛み付かれ、激痛がはしった。

「うぅッ!!」

 さすがに片手で抑え込んでいられない。少女は俺の手から逃れ走り出す。ガサガサと草が揺れる音がする。槙田は何とか銃口を向けたが、相手の姿を取られることはできなかった。

「槙田さん!」

「いいから追え!」

 尚が駆け寄ってきたが、槙田はまた怒鳴った。彼女の悪い癖だ。どうしても任務の遂行より、誰かを助ける事が優先されてしまう。

「水無瀬、見えてるか?」

『はい、なんとか。千野さんが追っています』

 水無瀬は川の向こう側で狙撃の準備を整え終えているはずだ。

「応援できるか?」

『やってみます』

「一は?」

『B地点に居る』

 作戦通りの場所に居る。

「パーーーーッン」

 水無瀬の銃声の音が聞こえてきた。

「アレクは?」

「パーーーーッン」

『C地点』

 アレクセイも所定の場所だ。準備はできている。

「挟み込め!」

 槙田はそう指示を出すと、持っていたハンカチで口と片手を使って腕の止血をした。思ったよりも出血しているのかもしれない。少し頭がクラクラする。
 久しぶりに流血した。

 久しぶりに……娘の亡霊を見た。
 






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美雨

Author:美雨
オリジナル小説・詩の下書きblog
「神様は賽を振らない」の連載開始。
※物語の特性上、一部不快(グロテスク/残酷)に思われる表現があります。
※作品の転載・お持ち帰りは禁止です。何かで使用されたい場合は、事前にお声かけください。歓迎★
※詩を歌詞として曲などで使用していただけるかた募集中。また、その逆も募集中です。

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