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神様は賽を振らない 第2章 ③

>>03

 防犯カメラの映像に映っていたのは、女児と少女の2名。年上の子に手を引かれながら歩いている2人の姿は姉妹の様にも見えた。映っていた2人の姿は後姿ではあったが、行方不明になっている女の子、白石 桃花(シライシ モモカ)ちゃんの両親は、その画像の子を見て、自分たちの娘であると証言した。
 女児の着衣は行方不明になった時の服装とも一致している。背丈や骨格による判定もほぼ一致。映像の女児は遺体で見つかった桃花ちゃんで間違いないだろう。
 一方で手を引いていた女の子に関して、よく遊んでいる近所の子どもではない。見覚えはないというのが桃花ちゃん両親の返答だった。
 特に特徴があるわけでもなく、槙田にはどこにでもいそうな子どもに見えた。
 結局、静止画をテレビで公開。記者会見で子ども達の情報提供を呼びかけた。
 大人がバックに付いていることも考えられるが、子どもが子どもを拉致したと見れるこの事件に世間も驚いていた。手に余る子どもを持つ親は、我が子を容疑者として通報した。警官が話を聞いていた女の子が犯人と勘違いされ、怒った近隣住民が女の子の家を襲って窓を壊した。
 まるで魔女狩りだ……。記者会見を開いたのは間違いだったかもしれない。そうは思うが、犯人がグールだとしたら、逮捕できるまで次の犠牲者が出続ける。躊躇ってはいられない。
 目撃情報も多く集まったが、2人の子どもに干渉する者はほとんどいなかった。目撃された桃花ちゃんは落ち着いた様子で、母親を求めて泣き叫んだりもしておらず、一緒に歩く2人に話しかけるような人は少なかった。2人は姉妹、または友達で、2人で遊んでいるのだろうとほとんどの人が気にも留めなかった。
 年老いた女性が桃花ちゃんが泣いていたのを気にして話しかけたという。すると手を引いていた女の子が、「この子、迷子みたいなの」と答えた。女性は近くの交番に連れて行くように言って、道を教えて2人を見送った。
 犬を散歩させていた女性も、2人に「どうしたの?」と訊ねた。すると女の子が「迷子の子を交番に連れて行くとこなの」と答えた。
 その会話を耳にした幼い男の子を連れた別の女性が会話に加わった。「どこに住んでるの?」と聞くと、女の子は「交番は帰り道の途中にあるの」と応えたという。彼女は悲しそうな桃花ちゃんを見て、「大丈夫?」と声をかけたが、返事はなかったという。そこで女の子が「交番に行くから大丈夫」だと主張した。しかし女性はもう日が傾きかけているのもあり心配になった。犬を連れた女性に、桃花ちゃんを交番に送り届ける間、疲れてぐずっている自分の息子を見ていてくれないかと頼んだ。けれど、犬を連れた女性は自分の犬は子どもが嫌いだからと言ってそれを断った。歩き出す2人に「道順はちゃんとわかってるの?」と声をかけると、「あっちでしょ? 大丈夫」と女の子は交番の方角を指差して言ったという。
 学生も帰り道に2人を目撃していた。こんな時間に小さな子どもだけでいるのが心配になり声をかけている。女の子は「これから家に帰るところ」と言ったという。
 目撃情報は河川に掛かる橋周辺で多かった。遺体が発見された場所はそこから1キロ程離れた線路上ではあったが、槙田は目撃情報の多かった運河を中心とした捜索を指示した。
 その結果、河川での捜索で新たな子どもの遺体が2体見つかった。桃花ちゃんの遺体と同じように頭にハンカチ、噛み跡があった。同一犯の犯行と考えられる。しかもこの2人はここ数日に行方不明になっている。届出が出されていた為、直ぐに身元は判明した。
 ハンカチや噛み痕などの情報は伏せられ、報道もされていない。見つかった2人の両親にさえ、告げられることはなかった。遺体は死亡解剖に回されている。
 槙田は捜査本部に一旦召集をかけ、それぞれの報告を聞いていた。
 皆疲れている。ただでさえ厳戒態勢で休みが減っているといのに、事件を抱え込めば更に忙しくなる。

「噛み跡は子どものものでした」

 水無瀬が問い合わせていた件の報告をした。

「全部?」

 千野が声をあげた。

「はい。すべて同一人物のもので、5~6歳ぐらいの歯型だそうです」

 そう聞いて、槙田は無意識に溜息が出ていた。もしかしたら大人が後ろで手引きをしていたかもしれないと言う考えが消える。あの防犯カメラに映っていた少女が、食べる為に女児達を誘拐した。手を引いていた少女は、グーラだった。
 槙田が左腕にしていた時計に目を向けると14時を過ぎていた。12ゲートに到着し、取敢えず奈々子夫人を指定の場所へと送り届けてから忙しない。桃花ちゃんが誘拐されたと思われるスーパーや河川を見回りながら事実関係を整理しつつ、両親へ直接話を聴いたりとバタバタしていた。皆、身体を休める暇もない。
 槙田はその事も考慮して、この後の行動を考えた。粗方今手に入る情報はそろった所で、口を開く。

「俺たちは16時から河川を中心に網打ちする。野々宮、千野、アレク、水無瀬はそれまで休め」

「私もですか?」

 水無瀬が不服そうに声を上げる。まだやれますと言わんばかりだ。
 しかし、若く体力もある方だとは思うが、目の下のクマは化粧で隠し切れなくなってきている。槙田不在の間も気を張って頑張っていた事も容易に想像はつく。彼女は自分ができる事を丁寧にやり遂げている。
 戦闘員達を休ませることは常だが、その為捜査官へ掛かる負担は大きい。長い期間、この部署に所属していられる人間は少ない。

「休むのも仕事のうちだ。次の捜査に備えてくれ」

 槙田は彼女の目をじっと見ながら言った。
 槙田は今まで何人も潰れた捜査官を見てきた。ここで働ける彼女のような優秀な人材を失うのは大きな痛手になる。

「……わかりました」

 水無瀬は我慢するようにだが引き下がった。
 そんなやり取りをしている間に、千野は大きな欠伸をしながら既にソファーに倒れ込んでいる。アレクセイは奥の仮眠室へと移動していた。
 ここで彼等を監視しなければならない為、水無瀬を休ませるとなると槙田はこの場所を動けなくなる。ここから指揮をとるしかない。
 尚は稼動中だ。誘拐されたと思われる場所と遺体発見現場から、犯人の行動範囲を絞りだしているようだった。大人より行動範囲は狭まるが、グールであるとすれば広がりが出る。パソコンに向かって難しい顔をしていた。
 槙田は一服する為に一旦部屋を出ることにした。部屋のドアは出入りするたびにIDカードによるロックの解除が必用になる。
 指定の喫煙室があるわけではない。槙田は静まり返った廊下で内ポケットから煙草を取り出した。吸いたくなるのは仕事中だけだ。プライベートでは吸わない。
 煙草に火を突けようとしたところで、出てきた部屋のドアが急に開いた。

「槙田サン」

 ドア開けたのは一だった。

「……どうした?」

 槙田は煙を吸い込み、吐き出し言った。彼が何を言いに彼の後を追ってきたのか、なんとなく予想は付いている。

「今回の事件……」

 そう話し出して、続きが出てこない。一は口ごもって、下を向いた。基本的に率直に意見してくる彼が、こんな風に口ごもるのは珍しいことだ。

「尚のことか?」

 槙田が話を促すように言うと、一が驚いたように顔を上げる。

「……はい」

 やっぱりその事か、と槙田は思った。
 今回の事件は、尚が昔関係した事件と似てると言えば似ている。一は尚に何か悪い変化が起こることを気にしている。もしも消されたはずの記憶が戻ったとしたら。完璧に記憶が復元されるた事例はないが、たまに不具合は起こる。人によって様々な症状ではあるが、断片的な記憶が蘇った事例は幾つか報告されている。

「記憶は消去されている。まぁ、万が一ってこともあるかもしれないが、敢えて尚は外さない。もしも何か起こってしまったとして、それが俺達の手の延ばせる今であって欲しい。これからもずっと過去から逃げ回っていられる保証はないしな」

 槙田自身も、心配がないわけではない。尚は11歳を境に大きく変わった。前と後では、別人かもしれない。前の自分を彼女が取り戻したらどうなるか。想像すらつかない。
 彼女がどんな風に思って、どう変わるのか。結局それを知ったところで、彼女に与える影響や、その事件にまつわる最上級極秘事項から考えて、再度記憶を消される可能性が高い。

「心配するな。俺もお前もついてる。その為に尚がこの班に配属するよう手をまわしたんだぞ」

 どうにかなる。としか言いようがない。出来る対応をするだけだ。
 一は槙田の目を見ると頷き、そのまま何も言わずに元居た部屋へと戻って行った。
 尚の存在は一にも変化をもたらした。それが良いのか、悪いのか、そんな事はわからない。グールであって、グールではないような彼等を、槙田は同じ人間だと思っている。人間の中にも、色々な奴が存在する。
 口の中には、煙草の苦い味だけが残っている。こんな苦味は、誰の中にもあるものだ。





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美雨

Author:美雨
オリジナル小説・詩の下書きblog
「神様は賽を振らない」の連載開始。
※物語の特性上、一部不快(グロテスク/残酷)に思われる表現があります。
※作品の転載・お持ち帰りは禁止です。何かで使用されたい場合は、事前にお声かけください。歓迎★
※詩を歌詞として曲などで使用していただけるかた募集中。また、その逆も募集中です。

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