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神様は賽を振らない 第2章 ②


>>02

 やけにおとなしいな。調子狂う。いつもなら質問攻めにされているハズなんだが……。
 いつもなら尚の相手をしてくれているアレクセイは今日は不在だ。車を運転中の槙田はとにかく落ち着かなかった。助手席に座ったやけにいつもより大人しい尚を気にしながら後ろの席をチラリと盗み見ると、後部座席の小池 奈々子(コイケ ナナコ)と目が合ってしまった。
 何でこの人物を乗せて車を走らせているんだか、槙田は自分でもよくわかっていない。尚を連れて12ゲートへと向かう予定ではあったが、彼女がこの車に同乗するなんて話は今さっき本人から聞くまで無かった。  ただ、彼女が乗ると言ったら、乗せなければならない。彼に拒否権はない。

「この事、総理はご存じなんですよね?」

 どのへんまで聞いていいのかわからない。槙田はとりあえず、言えない事は話さないだろうから、目が合ったついでに適当に聞いてみることにした。
 顔も名前も知っている。グール対は彼女の後ろ盾が大きいから、直接会ったこともなくはない。だからといって直接話した事はないし、彼女が自分の名前を知っていたのに槙田は驚いた。まぁ、前もって調べてから来ているのだろうから、当たり前だと言えば当たり前ではあるが。
 白いスーツを身に纏いながら、上品な笑みを浮かべて奈々子夫人が言う。

「知らないわ。その方が安全だもの」

 歴代総理は2代続けて殺害されている。1人は自分以外の一家全員をグールに殺された男に。2人目は総理を含む一家全員が国民達による集団暴行の末に殺害されている。
 彼女の夫が総理大臣になってからは、多少この国が落ち着きを取り戻し始めた。彼女自身も国民から人気が高い。

「……そうですか。ヘリで向かう方が早い……ですけど、こっちの方が安全ってことですかね?」

「ええ、そういうこと。でも、地下道ってつまらないのよね。景色も何も楽しめないし」

 時間短縮のために、1ゲートと12ゲートの行き来には地下の使用が許可された。異例の措置と言えるが、人員が不足している為致し方がない。状況も好転などしおらず、相変わらず12ゲートを死守するべく厳戒態勢が続いていた。
 確かに、地下道はひたすら同じような道が続く。事故防止の為、どの車も基本自動運転だ。今回は先日乗った時とは違う、小型車で移動している。槙田は運転席に座ってはいるが、彼が運転をしているわけではない。何かあった時に、何が何でも彼女を守らなければならない。その為念には念を入れ、この席に乗り込んでいる。何十年も前に作られたシステムが管理しているというのに、未だかつてこの地下道で事故が起きたことは1度もない。

「テレビではヘリで向かうって報道されてましたけど、やっぱりダミーなんですか?」

 槙田は持ち込んだ手元の事件資料を見ながら会話を続ける。

「うふふ」

 彼女は嘘なんか付いた事がないような顔で笑っただけだった。

「あははは……」

 肯定も否定もしていないが、多分ダミーが乗っているんだろうなと思いながら、槙田も下手な笑い声を上げた。

「でも、なんで今一番危ない12ゲートに行くのですか? 1ゲートの方が安全ですのに」

 今まで静かにしていた尚が、ツッコミどころの多い変な喋り口調で会話に参加しだした。

「お前が口出すことじゃないだろ。すみません、まだ子どもなので……」

 頼むからいい子にしていてくれよと思いながら、槙田は慌てて夫人に謝った。
 彼女の鶴の一声で、彼等は簡単に居場所を失くす事になる。

「いいのよ。その子どもを戦地へ送ってるのはこっちだもの」

 彼女は気にしていない様に振る舞っているが、本当に大丈夫なんだろうかと槙田は不安だった。気が気じゃない。これがあと何時間も続くと思うと胃が痛くなる。コネが作れるかも。だなんて、彼女を乗せる時に少しでも思った自分が馬鹿だったと思い知る。

「危険なのはもちろんわかっています。でも、現地の不安をできるだけやわらげたい。現状をきちんと把握して、総理の力になりたい。高みの見物してたって、状況をよくできないから。私が動き回ると、周りは大変っでしょうけどね」

 彼女の夫がここまで伸し上がったのは、彼女の存在が大きいと噂には聞いていたが、あながち嘘でもないのかもしれないと槙田は思った。
 槙田の不安をよそに、尚は遠慮なく話し続ける。

「奈々子さんは、桐島 正義(キリシマ マサノリ)って知ってますか?」

「お前、いいからちょっと黙ってろ」

 いつもの質問攻めの矛先が小池夫人へと向いたのを察し、槙田は尚に思わず怒鳴った。しかも、質問の内容が桐島警視長であった事に焦りを隠しきれない。無暗にその人物の名前を口にするなんて事は、少しでも彼のことを知っている者からしたらありえない事だった。

「ご、ごめんなさい」

 尚が語尾を尻すぼみになりながら謝る。
 ああ、やり過ぎた……。ついデカイ声出し過ぎた。
 槙田は失敗したと頭を抱えながら、こんな状況よりも幾分現場の方がまだマシなんじゃないと思えてしまう。

「そんなに怒らないであげて。私が無理矢理同乗をお願いしたのだから。それに、何時間も黙っていたら息が詰まってしまうわ」

 このやり取りを見ていた奈々子夫人は、子どもを見る母親のような目で俺達を見ながら楽しそうに笑った。
 槙田は余裕のない様がにじみ出ている自分が急激に恥ずかしくなった。顔が熱い。珍しく、彼は赤面していた。

「桐島さんとは1度一緒にお仕事したことがあるわ。それから長い間、お付き合いさせてもらっていました」

 彼女が元警察官なのは周知の事実だが、桐島と仕事をした事があるという話を槙田は初めて知った。父親は政治家。母親は資産家の令嬢。そんな環境で育った彼女は、何故警察官になろうと思ったのかは謎だった。しかも志願してグール対に所属していた。
 桐島 正義。小池 奈々子。2人は似ても似つかない。なのに、この人はどことなく桐島と同じ匂いがすると、槙田は前々から感じていた。

「わたし、おじいちゃんのことよく知らなくて」

 尚がそう言って俯いた。それもそうだろう。彼女を引き取って、2年程で彼は亡くなっている。桐島は死ぬ寸前まで仕事漬けだったし、尚は新しい環境に慣れるのに必死だった。2人が一緒に過ごす時間なんて殆どなかった。
 尚は桐島についてたまに誰かに聞く事があるが、彼について話したがる人は少ない。
 そもそも、彼が関わっているほとんどの事柄が国家機密だ。存在自体は仕事の鬼で、絶対敵には回してはいけない人物。そりゃみんな閉口するよと槙田は思った。その危険物取扱注意の様な状態は、彼が亡くなってからも変わっていない。

「そうね。一緒に過ごせた時間が短かったでしょうから。あなたの存在は、彼にとって少し特殊……というよりも、特別だったと思うわ。今のあなたを見たら、どんな顔をされるのかしら」

 彼女はそう言ってクスリと笑った。
 それはどういう意味だろう? 奈々子夫人が言った意味が、槙田にはよくわからなかった。

「……こちらゼロツー、聞こえますか?」

 左耳からジジッっという音が鳴って、急に無線連絡が入った。
 槙田は奈々子夫人の方を振り返り、耳のを指差して見せた。彼女は直ぐにその意味を察して頷く。
 槙田は無線に応答した。

「ゼロワンからゼロツー、ジャスパー。聞こえている」

 槙田と尚の2人が12ゲートへ向かっているのは、今向こうで勤務にあたっている4人と交代する意味もあるが、向こうで起きている事件の捜査にあたる為でもある。
 昨日、とあるスーパーから2キロ程離れた線路上で、列車に轢断された少女のの遺体が発見された。遺体は頭部と顔面に集中して激しい暴行を受けていた。合計32ヶ所の傷を負っており、どの傷が致命傷になったのか断定できなかった。しかもその遺体の腕と両脚、腹部に食いちぎられた様な跡が見受けられた。
 腹部で轢断された遺体の上半身は並行するレールの内側にあったが、下半身は衝突の衝撃で少し離れた所まで飛ばされていた。
 レール上に横たえられた時少女にはまだ息があったが、通過する列車に轢かれ死亡した、と検死は結論付けられた。上半身の頭部はハンカチで隠されていたという。

「シュガーボールからゼロワンへ経過報告。2日前の13時頃、少女Aは母親に連れられ自宅から20分程の距離にあるスーパーへと到着。Aがぐずった為、母親はレジから数歩離れた店先で待たせることにした。レジは混んでおらず、注文しておいた商品を受け取り、清算するまでに要した時間は2、3分程度。その間にAは姿を消した模様。直ぐに店の中や周辺を捜索したがAは見つからず、警察に通報したのがそれから20分後。防犯カメラの映像を調べたところ、母親の記述と一致する衣類を身に付けた女児が、少女に連れられて歩いている姿を発見しました」

 何で子どもが? 誰かに頼まれて連れ出したとか?
 槙田は疑問に思った。当初、遺体が発見されるまではわいせつ目的の誘拐事件ではないかという見方が強かったが、遺体に性的暴行の形跡はなかったという報告を受けている。
 基本的に子どもが誘拐された場合、両親やその子どもの顔見知りが犯人の場合が多い。

「両親にその映像の子がAと同一人物かどうか確認してもらって、その相手の子どもに見覚えがないか聞いてくれ。もし、その子どもに見覚えがない場合は防犯カメラの静止画を公開する」

「このヤマは私たちが指揮をとるんですか?」

 昨日までは違ったが、今日その話を上から受けた。12ゲート内に凶悪なグールが潜伏しているせいで、上もピリピリしている。それと関連はなさそうではあるが……グールがシェーム一派だけかといったら違う。他にも人に紛れて人を食い荒らすグールはもちろん存在する。
 ただでさえ不安な日々を過ごす12ゲートの住民にとって、今回の事件は火に油といった感じだ。早急に事件を解決するように上から言われている。火消しに必死だ。

「そういうことになった。周りの聞き込みを徹底してくれ」

「了解」

 尚は無線に耳を傾けてはいたが、一言も話すことはなかった。槙田は水無瀬との通信を終了し、もう1度現場の写真を見直す。
 目を逸らしたくなるような写真だ。少女はまだ3歳だった。

 12ゲートまで、半日かけたドライブはまだ続く。





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美雨

Author:美雨
オリジナル小説・詩の下書きblog
「神様は賽を振らない」の連載開始。
※物語の特性上、一部不快(グロテスク/残酷)に思われる表現があります。
※作品の転載・お持ち帰りは禁止です。何かで使用されたい場合は、事前にお声かけください。歓迎★
※詩を歌詞として曲などで使用していただけるかた募集中。また、その逆も募集中です。

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