1012345678910111213141516171819202122232425262728293012

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

神様は賽を振らない 第1章 ⑥

>>06

 オンライン会議が終わったところで、少しは落ち着きを取り戻した様子の都筑 孝輔が、あるものを槙田に差し出した。
 デスクの上にファイルや何かと雑多に置かれていたそれは、犯人の1人から手渡されたものだと言う。

「警察にバレたら渡しとけって言われた」

 大きなため息を付きながらそう言った都筑は上の空だった。妹の事でも考えているんだろう。誰にも聞き取れないような小さな声で、独り言をブツブツと呟いている。

「とりあえず観てみようよ」

 アレクセイが槙田の手元を覗き込みながら言った。都筑に渡されたのは、ケースに入った1枚のディスクだった。

「そうだな」

 そんな都筑の様子を気にしながらも、槙田はそのディスクの中身を壁のディスプレイに映し出すように水無瀬に指示を出した。
 槙田がネクタイを少し緩めながら腕時計に視線を向けるのを見て、自然と一も壁に掛けてあった時計に視線が向かった。時計の針はそろそろ12時を回ろうとしていた。
 現在12ゲートが管轄の警官が総出で犯人を捜索中だ。すでに12ゲート内で被害者が出ていると報告上がっている。犯人グループの1つ? と交戦し、警官が負傷。まだ1人も犯人を取り押さえることができていない。
 このまま「普通の人間」が対応していたら、死傷者の数は益々増えるだろう。グール対策チームが動くことでやっとまともに応戦できる相手だであって、まともにやり合っていい相手ではない。本来は、対策チームを応援に呼び、退避するのが正しい対処になる。
 槙田の班も加勢したいところではあったが、他の班と違い生き残りの住民を保護できた事で他のチームと措置が違った。彼から情報を得る事を最優先しろとの命令を受けている。
 画面に、足を広げるようにイスに座っている男が映しだされた。男は両手を軽く組むようにして膝に肘を置き、前のめりな体勢でこっちを見つめている。

「……さて、人間の皆さん。これは善とか悪とかの話ではない。君たちは生きるために食べて、呼吸をする。僕たちも同じように、生きるために食べて、呼吸をする。君たちがすることは善で、僕たちがすることは悪か? これはただの自然の摂理だ。この世界は誰のものか。君たちのものか? 君たちが生きることは善で、僕たちが生きることは悪か? 絶対的な善悪など成立しないように、誰かが思う悪が何かを救うこともあれば、誰かが思う善が何かを傷つけることもある。自分たちが生きるために僕たちを排除しようとすることは善か? 僕たちが生きるために君たちを食べることは悪か?」

 男が監視カメラに映っていた男であることは直ぐに解った。しかも、一はこの男と面識があることを思い出す。フラッシュバックする記憶が、自分は昔この男に会ったことがあると言っている。  当たり前だが、男は初めて会った時よりも歳をとっていた。そのせいで粗い、薄暗い画像では気付けなかった。「あの時」は14、5歳ぐらいに見えた。
 男はゆっくりとした口調で話し続ける。

「これは善とか悪の話ではない。これはただの自然の摂理の話だ。けれど、人間として産まれてグールとして生きる者もいる。人間と交わって生きるグールもいる。だから歪む。僕はその歪みを正常に戻す努力をすることにした。僕はその為に、まず積 那由他を殺した」

 積 那由他を殺した!?
 長年追っていた指名手配犯の積が、同類に殺されていた!?
 男の発言を聞いて、映像を見ている誰もが驚きを隠せなかった。警官だけではなく、都筑でさえも。
 積 那由他は元警官であり、後に大量殺人とアウトブレイクを画策した張本人だ。収監されていた刑務所から脱獄し、その消息は不明なままだった。
 頭がよく、他の一般的なグールとは圧倒的に違う。尚は一が積の事をそう尚に言っていた事を思い出していた。
 一が、最も恐れていた人物でもある。
 画面ではここで急に登場人物が増える。
 男は座っていたイスから立ち上がったと思うと、高校生ぐらいに見える女の子の頭を鷲掴みにしながら直ぐに戻ってきた。口にはテープが張られ、両手は後ろで拘束されていた。

「真知!!」

 都筑の悲鳴のような声が上がる。
 引きずられるようにしてふらふらと画面上に登場した女の子は、すでに暴行を受けて出血や痣が見受けられる。都筑が連れ去られたと言っていた妹は、この女の子の事だった。
 男はもう片方の手に持っていたナイフを、女の子の首元へとあてがった。

「やめろ!! やめてくれーーーーーっ!」
「人間として育ったグールは、グールであってもはやグールではない。歪みの元凶は、処分する」

 耳を塞ぎたくなるような声は、この部屋の異常さを掻き立てる。これは生中継じゃない。いくら叫んだって、都筑 真知はすでに死んでいる。泣きじゃくりながら「やめろ」を繰り返す都筑が、死体と一晩を共にするような異様な状況をやり過ごしたと人物とはとても思えなかった。
 興奮する都筑を、アレクセイが画面が見えないように抑え込む。都筑はそのまま泣き崩れた。
 血飛沫がカメラのレンズを赤く染め、女の子は用済みのゴミでも捨てるように放り投げられた。
 一は嫌なことに気付いた。カメラに映りこんだイスの背もたれの傷。壁に残された血痕。見覚えがある。彼は無意識のうちにそれを探し当てて、やっぱりそうかと思いそれらから視線を逸らした。
 場所はここだ。床に残っている大量の血は、殺された警官達だけのものではなかった。
 男は何事もなかった様に、また元のようにイスに座り直す。

「10年待ってやったんだ。少しは人口が増えたかな? こっちは食糧不足で苦しんだよ。もうこんなのはごめんなんだ」

 30半ばぐらいだろうか。今まで真直ぐに正面を向いて話していた男が、視線を落として言う。肘のあたりまでたくし上げられた白い長袖のワイシャツ。黒い無地のパンツ。黒い革靴を穿いている。
 その出で立ちは、どこか昔の積を連想させた。

「怯えて眠れ」

 男は最後に目線を上げ正面に視線を戻すと、そう静かに言った。冷めた視線。口元が少し緩んでいたような気もする。そこで映像は終了した。
 ゾッとした。背筋や指先は冷たく、血の気が引く様に感じるのに、心拍数が異様に跳ね上がる。画面から視線を逸らせずに固まっていた一だが、隣に居た尚が彼の服の裾を掴んだ事で意識が現実に引き戻される。一と同じように、彼女も男の事を怖いと思った様だ。その手は微かに震えていた。

「水無瀬、犯人の人相と背格好から解析」

 槙田が後ろでパソコンを操作していた水無瀬に早口で言った。
 尚は平常心を取り戻そうとでもする様に、こっそりと深呼吸をしていた。
 グールであって、もはやグールではない。あの男の標的は、人間だけじゃなくてグールも含まれる。それは自分達も標的であるという事だ。

「しています。ヒットしましたが、B号ではありません。私の階級ではセキュリティーに弾かれて観覧すらできないのですがこの人物はいったい……」

 水無瀬の言葉に槙田が無言でイスから立ち上がる。直ぐさまパソコンに向かい、自らパスワードとIDを入力する。

「……こいつか」

 槙田が独り言のようにそう呟く。

「シェーム?」

 一が確認するように槙田に聞いた。

「ああ。 B号で検出されてないはずだ。指名手配犯ではなく、事件の重要参考人扱いになっている」

 答えはイエスだった。あの時、積にシェームと呼ばれていた少年。出生などは何もわかっていない。

「誰それ?」

 千野が声を上げる。
 この中でシェームという人物を知っているのは一と槙田の2人だけだ。

「今回の事件の首謀者であり犯人」

 一がそう言うと、千野はその言葉に珍しく複雑そうな顔をしていた。

「そうじゃなくって! お兄ちゃんも槙田さんも知ってるんでしょ?」

 わざと男の事を隠そうとしているように感じた尚が、つい口を挟んだ。

「……俺も一も、昔1度見たことがあるだけだ」

「……ふーん」

 槙田の返答を少し疑うように、尚が言う。
 これ以上何を聞いても2人は何も話さないだろうと思ったアレクセイは話を変えた。

「それより、彼の言う歪みっていうのはW(ダブル)のことと、人間と関わってるグールってことであってる?」

「おそらく、そのような意味合いだろう。殺害対象は人間だけじゃなく、グールも含むなんて前代未聞だ」

 槙田が眉間に皺を寄せながら言った。
 グール同士が殺し合うなんていうのはそもそもない。殺したところで、同類の肉は喰べられないから意味がないからだ。それに、人間と違って運動能力も殺傷能力も高いグールを襲うことは、人間を襲うよりもリスクがかなり高くなる。よっぽどの理由がない限り、そんなことを態々したりしない。

「元々、干渉し合ったりしないからなー」

 千野はそう言ってパンツのポケットに手を突っ込みながら壁に寄り掛かった。
 彼等はグールであってグールとはまったく逆行した行動をとっている。グールでありながら、人間側に付き、人間と生活し、人間を助けるためにグールを捕まえている。人間と干渉し合いながら生きている。
 確かに、グールとしては歪んでいるのかもしれない。

「都筑 真知さんは、やっぱりグーラだったってこと?」

 少し疲れた様子で、尚が近くにあったデスクの上に腰かけながら言った。

「……真知は」

 妹の名前が出たことに反応して、床にへたり込んでいた都筑が、急に積を切ったように喋り出した。

「政府の言う奇病に感染してたんだ。それが知られれば治療の為とか言われて、強制収容されるだろ? オレ達の間ではその強制収容所はガス室って呼ばれてる。行ったら最後ってな。だからオレ達家族は、ずっと真知を守ってきたんだ……。その為なら何だってした。それなのに、親はもう限界だとかぬかしやがって!」

 一は見てきた街の惨劇のうち、都筑の家と峰岸 瑞月だの家だけが、他の殺害現場とは違って見えた事を思い出す。

「両親殺したのか?」

「真知を守る為だ!」

 槙田の問いに、都筑は胸を張るようにして言った。
 都筑の話、と言うより供述によれば、その2軒での殺人は、たまたま今回の事件と重なって起きた事件だったということになる。
 はじめのうちは、両親も何とか娘のことを守ろうとしてた。でも、その為に人を殺さなければならない事。娘が人肉しか喰べることができないという事実。自分達も娘に喰われるんじゃないかという恐怖。もう、人ではないバケモノとなった娘を、両親は政府に引き渡そうとした。
 それは仕方のない事だと、都筑以外の者は思っていた。
 グールがそれを隠しながら生きていくには、人間ではいられない。グールとして生きていくしかない事を知っているからだ。

「妹はお前が両親を殺した時一緒に居たのか?」

「真知は、両親が話をしているのをたまたま聞いちまって泣いてたんだ。しかたないって俺に言った。仕方ないのは病気になったことで、ガス室行になることじゃねーだろ。……かわいそうに。かわいそうな、俺の真知」

 槙田の淡々とした質問に、都筑は今まで誰にも話すことができなかった、自分の中に閉じ込めてきた秘密を話し続ける。
 女のグールであるグーラは、見た人物の理想の女性の姿に見える。たぶん、グーラである妹に魅せられていた兄は、妹を純粋に助けるために両親を殺害と考えられる。

「目撃していたんだな? その後妹はどうした?」

「気付いたらいなくなってた。あんなクソみたいな親と一緒に居たくなかったんじゃねーの?」
 たぶん、その殺害現場に居合わせた妹は、『人間らしさ』を失った。血の臭いは正気を奪い、すべてが食欲だけに支配される。もしかしたら、彼女は両親を喰べたくなくて、その場から必死で逃げたのかもしれない。
 けれど、こうなるともう手が付けられない。

「それから?」

「……俺が今度は親父を殺ろうとしてたところで邪魔が入ったんだ……。目の前で親父の頭が吹っ飛んだ。バケモノどもが、かあさ……あの女を、犯しながら喰って……」

 そこまで話して、どんどんと顔色が悪くなった都筑は、ついに嘔吐した。
 欲求を抑えられず、人を喰らうバケモノになった都筑の妹は、隣家の峰岸 瑞月宅で欲求を爆発させる。
 そこにまたシェームたちが居あわせ、兄同様、利用するために彼女も連れ去る。
 一の頭の中では、そんなストーリーが出来上がった。

 グールはずっと昔から、人に紛れて生きてきた。アラブ人の伝承や、イスラム教のハーディスにも登場する怪物だ。
 砂漠に住み、体色と姿を変えられる悪魔。
 墓を漁って人間の死体や子どもをを食べ、旅行者を誘い込み、殺して食べるとされている。
 警察は、長年に渡りこのグールを秘密裏に捕まえ、収容していた。人間の安全と秩序を守るために。
 その収容所からグールを解放するという事件を起こしたのが積 那由他だった。その事件を通称、アウトブレイクと言う。
 政府はグールを奇病が発症している人間と称している。

 何十年も前から計画的に地下で建設されていたこのゲートは、疫病の感染拡大を防いでいるわけではない。
 狂人に変貌すると言われる疫病は、感染などしない。
 生き残った国民に説明され、歴史認識されている物語は、事実とは異なる。

 この事件は、アウトブレイク以来、最大のグールによる大量殺人事件になった。





にほんブログ村 小説ブログへ
にほんブログ村


Web小説 ブログランキングへ
関連記事
スポンサーサイト

テーマ:オリジナル小説
ジャンル:小説・文学

コメントの投稿

secret

top↑

comment

trackback


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

top↑

プロフィール

美雨

Author:美雨
オリジナル小説・詩の下書きblog
「神様は賽を振らない」の連載開始。
※物語の特性上、一部不快(グロテスク/残酷)に思われる表現があります。
※作品の転載・お持ち帰りは禁止です。何かで使用されたい場合は、事前にお声かけください。歓迎★
※詩を歌詞として曲などで使用していただけるかた募集中。また、その逆も募集中です。

最新記事

カテゴリ

リンク

ブロとも申請フォーム

人気ブログランキング

にほんブログ村

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。