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神様は賽を振らない 第1章 ②

>>02

 今から19年前。日本は非常事態宣言を布告。疫病により人口の多くを失った。
 その際、突如として現れた13からなるゲートによって、この国は14分割された。ゲートと呼ばれる高い塀によってこの国は守られている。

 だが、事実は違った。
 生き残った国民に説明され、歴史認識されている事実は、真実とは異なる。


 静かだ。寧ろ静かすぎて薄気味悪い。
 舗装されていた道路はデコボコとひび割れ、原型をほぼ留めていない。辛うじて残っている建物は、放置されたまま廃墟になっている。
 あの日から置き去りにされたような風景は、ノスタルジックとは違って見える。
 さすがに13ゲート外にもなると、1ゲートとの差が激しい。人が今も住んでいるような場所とは思えない。
 現在、中心部は人口が過剰すぎると問題になっている。中心部ほど『安全』だという誰かが言いだした噂やイメージから、他ゲートから中心部に人が流れ込んでくるようになった。
 中心部が本当に安全かというと、そうとも言えない。絶対的な安全、完璧な感染からの隔離など不可能だからだ。ただ、総理大臣や国の要人達が集まる、国の中心が1ゲートになる。警備体制に差があり、1ゲートほど金がかけられ人員が咲かれているのは確かだ。
 ゲートができたばかりの頃は、他ゲートにも自由に行き来することができた。今では通行許可証がなくては通り抜ける事はできない。許されるのは、政府の人間、警察関係者、軍事関係者。その中でも限られた人間だけだ。
 空を仰ぐと、いつもと変わらない見慣れた風景になる。雲ひとつないような青空。空だけはここも変わらない。
 倒れた標識。乗り捨てられ錆びついた自転車。電柱に突っ込んだ車。崩れた陸橋を横目に通り過ぎ、15分も歩けば目的の場所へと到着した。
 13南署。
 作りは交番と似ているが、交番のようにガラス張りではなかった為、中の様子を窺うことはできない。入口には監視カメラが付いているのが確認できたが、このカメラも壊されていた。
 あの映像はたぶん、このカメラのものだ。そう一は考えていた。

「スノーバード、ビッグベアー」

 沈黙を破ったのは槙田だった。手でサインを送っている。コードネームを呼ばれた千野とアレクセイが入口のドアの両脇を固めた。続いて尚、水無瀬、槙田、一と続く。銃の安全装置は外され、全員が戦闘態勢に入っている。
 電子キーのパネルが外され、何か装置がつけられていた。ロックを解除する装置だと考えられるが、こんなものをどこでどうやって手に入れたのか、至近距離でそれを確認していたアレクセイは眉間に皺を寄せていた。
 先頭の千野から、ドアが開きかけていることが伝えられた。中からは、血の臭いが感じとれる。
 千野が槙田を見ると、槙田が片手をあげた。それに答えるように千野が手を上げる。それを確認したアレクセイが、ドアを足で蹴りあげ乱暴に開け放ち大声で叫んだ。

「警察だ!」

 千野が銃を構え、中の様子を窺いながら入って行く。
 中から銃声は聞こえてこなかった。そのまま危険を伴うことなく、全員が中へと入ることができた。
 室内にたいして物はない。デスクにイス。左側の壁には大きなディスプレイに住宅地図が表示されている。ここ一帯の管理システムの一部だ。住民たちの危険を知らせる緊急ボタンと連動していて、ナースコールのように直ぐに把握できるようになっている。
 棚があったが、ファイルが幾つか引き抜かれたように空洞ができていた。
 元々デスクの上にあったはずの2台の電話は床に落ちている。2台とも落ちた時の衝撃で受話器が外れた状態になっていた。1台は定期連絡用の直通電話だった。
 床には血溜まりができている。破れた制服と、食べ残し。殴打され人相が崩れかけた頭部、縛られた両手首と両脚だけは原形をとどめている。他はグチャグチャだ。
 壁に掛かった時計の秒針だけが、静かな室内で一定のリズムを奏でている。

「オールクリア!」

 2階まで確認してきた千野が1階に戻ってきて言った。
 それを聞いて銃をおろし、証拠品に触れても構わないように手袋をはめた。

「2階に人の居た形跡はあったか?」

 しゃがみ込むようにして遺体の確認をしていた槙田が、顔を上げ千野に言った。

「同じ制服の人らしき残骸が1体あった。その人と同じ様にビニールテープで拘束されてたんだと思う。テープは2階に転がってた。ここって2人体勢なの?」

 ビニールテープを手にした千野が言う。

「そうだ」

 槙田はそう言いながら立ち上がると、今度は棚のファイル方へと足を向けた。

「緊急ボタン、押されまくってるね」

 尚が壁の住宅地図が映し出されたディスプレイを見ながら言った。直ぐ近くで遺体の断面をまじまじと見ている一に向けて言ってはいるが、独り言のようでもある。一は聞こえていたものの、何も言わなかった。
 ディスプレイにはほぼ全ての住宅に緊急出動の表示が記されている。この状況から言って、出動要請のあった全ての家で、この13南署と同じような襲撃を受けた可能性が高い。

「無くなっているファイルは、緊急時のマニュアルだ」

 槙田が親指で唇を撫でながら、ため息を付いて言った。表情は厳しい。

「なにそれ。そんなの持ってってどうすんの?」

 千野の言葉を通り越し、尚が口走る。

「緊急時って、こういう時のことを言うんでしょ? こういう時にどうすればいいかが書いてあるファイルがなくなった……って、ことですよね」

「そういう事。今我々はそのマニュアル通りに動いてるわけだ」

 そう言って槙田は何かを考え込むように腕を組んだ。

「それって、こっちの動き把握されてるってこと?」

 千野が他の誰もが思っていただろうことを今更口にした。

「そうだよ、バカ」

 ディスプレイを観察しながら、一が口を挟む。

「バカって言うな!」

 緊張感をぶった切るような千野の声が部屋に響く。
 一、アレクセイ、千野、尚の4人は捜査員ではなく戦闘員ではある。槙田と水無瀬の所有する兵器と同じような扱いだ。だが、千野の戦闘以外の戦力外っぷりは、もしかしたら下っ端の尚以下じゃないかと一は思っていた。

「パソコンが1台持って行かれてるかも」

 いつもの事で片づけられ、千野のそんな反応は皆してスルーだった。何事もなかったように、PCのアダプターだけを手にしたアレクセイが言った。
 その持ち去られたと思われるPCにどれだけの情報が残っていたの解らないが、犯人がこちら側の情報の多くを手に入れていることは確実だ。
 しかも、犯人像がいまいち掴めないままだ。単独犯なのか、複数犯なのかもわからない。行動は人間らしいのに、状況証拠的にはグールであることを示している。人間とグールの犯行。もしくは凶暴なカニバリストの犯行。それとも、元人間のグールによる犯行か。情報を集めていることや、宣戦布告的な行動は人間らしい。しかしそれは、食い散らかした人肉さえ残っていなければの話だ。人間のカニバリストは調理して食べることが多く、そのままかぶりつて喰べるような事例はあまりない。
 鑑識が入れば色々分かりそうではあるが、何時間後になるのかわからない。
 結局、これだけの状況証拠が残されていても犯人に繋がる手がかりを得る事が出来ず、一は焦りと不安を感じていた。

「応援要請しますか?」

 水無瀬が槙田に向かって言った。彼女の表情も厳しかった。顔色も悪い。

「規定ではそうだが、まだ駄目だ。ここにもういない場合、他へ襲撃があるかもしれない。他が手薄になったら困る」

 そう言ったまま槙田は押し黙った。考え込んでいる。
 彼の言うとおり、このままマニュアル通りに動くにはリスクが高すぎる。
 犯人は何処に行ったのか。今、何をしているのか。マニュアルとパソコン持ち去ったのは、逃げるのに利用する為なのか。それとも、まだ続きがあるのか。宣戦布告をしてきた事を考えると、この行為自体にも何か意味があるのかもしれない。
 考え込んでいる槙田と同様に考えを巡らせていた一だったが、ふと視線を落とした尚が、警官の遺体から目を逸らした事に気付く。遺体を見るのは初めてではない。薬も飲んでる。それでも、頭の中にこびりついている不安はどうしたって消えない。誰だってそうだ。態度はそっけないが、これでも彼なりに妹の事を気に掛けてはいる。

「2手に分かれて、住民たちの安否確認に向かう」

 30秒程沈黙していた槙田が重たい口を開いた。決断の速い彼にしては、答えを出すまでに時間がかかっている。それだけ難しい判断だったと言える。
 切られていた無線を再びオンにして、指示された通りにそれぞれ移動する。一は水無瀬、尚と一緒に行動し、槙田とアレクセイ、千野が行動を共にする事になった。
 警官2名を除いて、住人は全員で36名。12軒の家を、6軒ずつ見て回る計画だ。
 直ぐさま外に出ると聳え立つゲートに背を向けて、水無瀬から手渡された地図を片手に住民宅へと向かった。





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美雨

Author:美雨
オリジナル小説・詩の下書きblog
「神様は賽を振らない」の連載開始。
※物語の特性上、一部不快(グロテスク/残酷)に思われる表現があります。
※作品の転載・お持ち帰りは禁止です。何かで使用されたい場合は、事前にお声かけください。歓迎★
※詩を歌詞として曲などで使用していただけるかた募集中。また、その逆も募集中です。

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