1012345678910111213141516171819202122232425262728293012

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

神様は賽を振らない 第1章 ①


case.01 邂逅の人


>>01

 まるでサイレント映画を観ているようだ。これは夢なのか? 違う。音の欠けた記憶だ。
 最後に見た母さんの顔が、いつもの穏やかなものだったらよかったのに。
 最後に見た兄さんの顔が、いつもの優しいものだったらよかったのに。
 悲鳴にも似た怒鳴り声。
 身動きの取れない身体。
 鼻をかすめる血の臭い。
 助けられなかった。誰も。

 失敗作は誰だ。



「お兄ちゃん、着いたよ!」

 馴染みのある声に呼ばれて、野々宮 一(ノノミヤ ハジメ)は直ぐに目を覚ました。彼の記憶が確かならば、眠りに落ちる直前までは誰も隣の席には座っていなかったはずだった。いつの間にか、当たり前のように隣には野々宮 尚(ノノミヤ ショウ)が座っている。
 またかと思いながら、溜息が漏れた。睡眠の邪魔をされるわけではないが、未だに「この感じ」に慣れない。懐かれてからずっとこんな調子だったりする。
 額にうっすらと汗をかいているのがわかる。夢見が悪い。別に珍しい事ではなかった。またかと言った感じの事だ。
 専用小型飛行機に揺られ3時間程が経過していた。やっと目的に到着した。

「お兄ちゃんじゃなくて、野々宮補佐」

 一は尚に冷たい視線を向けて言った。これもいつもの事だ。彼は誰に対しても大体冷たい。彼の態度と言うより、彼女は階級のことを気にするべきだと言える。一は警部で、尚はこの仕事に就いてからまだ1年半の一番下っ端だ。2人は生活安全部 生活安全特別捜査隊 特殊捜査犯という長い名称の課に所属している。尚はそれでも気にすることなく会話を続けた。

「大丈夫?」

 尚が小首を傾げながら一の顔を覗き込んでくる。相変らず距離感が近い。息が吹きかかるような距離に彼女の顔が迫った。

「何が?」

 一はそう言いながら尚の肩を掴みそれとなく押しのける。大きな目から視線を逸らし、装着していた安全ベルトを外し彼は出発準備をし始める。

「だって、魘されてたみたいだから。悪い夢?」

 そう言って、尚が不安そうな表情を見せた。
 彼女は自分のことよりも、他人の事を優先させるような傾向がある。それにまつわる様々な行動のせいもあり、周りにはよくブラコンだと言われている。

「問題ない。それより早く準備したら?」

 こんなのは、問題のうちに入らない。そう思っている。彼はこの繰り返し見ている夢が、無意識に自分で忘れないようにと見ているような気すらしていた。自分からそんな事を意識せずとも、データ化された記憶は死ぬ度、強制的にインプットされる。良いことも、悪いことも、次の野々宮 一が同じ記憶を共有して生まれ変わる。その繰り返しだ。
 彼は自分が何人目の野々宮 一であるかは知らない。だが自分が、今までの野々宮 一よりは割と長い年月を生きている事は知っている。

「お前ら恋人か。いちゃつくな」

 上着を着込みながら、千野 高(チノ タカイ)が言った。彼は一よりもずっとがたいがいい。戦闘能力が高く、特に持久力が優れているのが特徴だ。
 彼等は飛び抜けた身体能力を有しているが、体力は長くはもたない。昔からそうだ。その改善の為に薬が開発されたが、結局その薬 は体力を引き延ばす代わりに寿命が縮むという副作用付だった。それでも19年前のブレイクアウト時は使用せざる負えない状況で、彼等はその薬を使用していた。現在も稀に、状況によっては使用されることがある。
 千野のように、体力が比較的長い人材は珍しい。
 彼は脱いでいた黒いスニーカーを履き、コートへと手を伸ばしていた。中に着ているロングTシャツもパンツも黒だ。羽織ったモッズコートはカーキ色だが、ほぼ全身黒い装いをしている。

「えへ」

 千野の言葉に何故か嬉しげに尚が笑う。一はそんな2人を放って、コートの袖に腕を通していた。
 彼等は戦闘要員ではあるが、軍人とは別格だ。軍服や戦闘服を着ることもない。それぞれがベストだと思う私服を着て任務にあたっている。
 尚はというと白いシンプルなTシャツにパーカー、ストレッチの効いたパンツ。ごついブーツを履いている。

「2人は兄妹なのにあまり似てないね?」

 話に割って入ってきたのはアレクセイ・ボルヴィニクだった。結構ブシツケな質問をしてくるが、本人に悪気はない。綺麗な青い目をしたロシア人で、日本の寒さはたいしたことがないと豪語していただけあって、今日も薄着だ。Tシャツにパンツを履いているだけで、彼が上着を着ている姿は真冬でも見ない。

「でしょ? 本当は兄妹じゃないんじゃないかって思うんだよね!」

 尚はショートブーツの紐をきつく結び直しながら言った。
 アレクセイは絵に描いた様なから笑をしていたが、お前ら何なの? みたいな目で千野が2人を見ていた。
 2人は確かに似ていない。一緒にいて兄妹だと思われたこともなかった。

「はい、そこまでー。詳細の説明すっから、ちょっと黙ってろ」

 会話を中断させたのは、左手に書類を手にした槙田 常春(マキタ ツネハル)警部だった。この班のリーダーだ。監視役と言われる彼と、その部下以外の戦闘員は、かなり大まかな事しか知らされずに現地まで輸送される。任務の詳細はいつも直前で知らされるのが通例だ。

「現在地は南13ゲート付近。一昨日から定期連絡が途切れた集落に向かい、現状の確認をする 。通信機の故障の場合はその修理も行う」

 13ゲートと聞いて、俄かに緊張感が増す。13ゲートは一番危険な地帯だ。生活している人間は僅かで、居住禁止区域になっている。軍から配属された者と士官学校の志願者が、外部からの襲撃を監視する為にのみ、立ち入りが許されている区域。住んでいるのは、基本的に13ゲート内の生き残った人間だけになる。
 異常がなくても、1日に2回、監視ゲートから定期的に連絡をするのが決まりになっているが、その連絡が途絶えた事で今回の出動命令が出された。

「監視カメラの映像は?」

「カメラは3台あるが、どれも破壊されていて現在は向こうの様子を観ることができない。残っていた直前の映像には人影が映っていたのを確認できている。その中の1台のカメラ映像に、1人の男が言葉を発しているものがあった」

 一の言葉に槙田はそう言って4人が見えるようにタブレットを向けると、映像を再生して見せた。
 画面にはいきなり1人の男が映し出された。歳は30前後といったところだろうか。長髪の髪を頭の後ろで束ね、眼鏡をかけている。
 薄暗い映像はただその男が何かひと言口にした後、カメラが破壊された様子が映っていただけだった。1分もない。

「音ないの?」

 千野が不服そうに顔をしかめながら言った。彼は感情が思いっきり顔に出るタイプだ。

「ない」

 槙田が即答する。元々マイクが装備されていたわけではない為、音声は入っていない。
 一は口元の動きを気にして見てはいたが、唇を読むことはできなかった。

「overthrow」

 彼の隣に立っていた尚が迷う様子もなく言った。

「うん。ボクもそれだと思う」

 斜め前に居たアレクセイが、大きく頷きながら尚に同意した。
 それを聞いて槙田が再度映像の確認し始めた。何度か再生を繰り返し、口を開く。

「……まだ報告は受けていないが、確かにそう言っているように見えるな」

「で、どういう意味?」

 千野が頭を掻きながら聞いた。

「誰かを屈服させるだとか、政府や制度などを転覆させる。理論などを覆す。もしくは、人や物をひっくり返す、建物を倒壊させるだとか。そんなところです」

 さっきまでパソコンをいじっていた水無瀬 日和(ミナセ ヒヨリ)警部補が手を止めて口を挟む。もう1人の監視役だ。
 彼女はそう言い終えるとそのまま立ち上がり、防弾チョッキに袖を通して自分の銃のチェックを始めた。

「……あぁ、そう言うこと」

 千野は少し引きつった顔でぼそりと言った。
 集落は日が暮れた頃、その男、もしくは複数人によって襲撃を受けた。

「人間なのかな?」

 尚が腕を組みながら右上の方へと視線を向ける。13ゲートで事件が発生した場合、基本的に人間以外の者が関係していることが殆どだ。一も同じ疑問を僕も持った。だが、今回の犯人はいつもと様子が違う。

「普通はしないよな、わざわざこんなこと」

 千野が尚の方を見ながら言った。2人が言いたい事は最もだった。所謂人間ではないグールは、態々こんな宣戦布告のようなマネはしない。食べる為に行動し、逃げるだけだ。

「人間だとしたら、目的は?」

 アレクセイが腕を組みながら言った。もし犯人が人間だったとしたら、この班は調査のみで撤退し、後の事は一般警察に引き継がれる。

「断定しない方がいい。例外はいる」

「そうだな」

 防弾チョッキを着ながら、一の言葉に槙田がが答えた。
 とにかく、調べないことには何もわからない。

「まずは13ゲートの南門に向かう」

 彼の命令で、全員が出口へと向かった。総勢6名になる班だ。
 全員が機を降りると、飛行機は離陸し去って行く。

 彼等は戦闘員だ。人間ではないバケモノと闘う為に存在する。
 グール(バケモノ)を狩る犬だ。




にほんブログ村 小説ブログへ
にほんブログ村


Web小説 ブログランキングへ
関連記事
スポンサーサイト

テーマ:オリジナル小説
ジャンル:小説・文学

コメントの投稿

secret

top↑

comment

trackback


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

top↑

プロフィール

美雨

Author:美雨
オリジナル小説・詩の下書きblog
「神様は賽を振らない」の連載開始。
※物語の特性上、一部不快(グロテスク/残酷)に思われる表現があります。
※作品の転載・お持ち帰りは禁止です。何かで使用されたい場合は、事前にお声かけください。歓迎★
※詩を歌詞として曲などで使用していただけるかた募集中。また、その逆も募集中です。

最新記事

カテゴリ

リンク

ブロとも申請フォーム

人気ブログランキング

にほんブログ村

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。